クリニックのオンライン診療 2026年|初診253点・10点加算の判断軸

Doctor consulting patient online via laptop computer.
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2026年4月、オンライン診療は「指針」から「基準」へと位置づけが変わりました。厚生労働省の通知(指針)として運用されてきたものが、医療法に基づく省令「オンライン診療基準」として施行され、都道府県への届出が義務化されています(既存実施機関は2027年3月末まで猶予)。立ち入り検査も可能になりました。

この記事でわかること

  • 2026年改定後のオンライン診療の算定要件(初診253点・遠隔電子処方箋活用加算10点 等)
  • 「初診OK拡大」の現実的な適応範囲と処方制限
  • 自院が導入を検討すべきか/見送るべきかを判断する具体的な軸
  • 月50件運用時の収益試算と、導入しない場合の代替策

「便利なオプション」から「やるなら正しくやる医療行為」への転換です。導入検討中の院も、すでに導入済みの院も、「うちはやらない」と決めている院も、いま一度判断軸を整理したいタイミングです。本記事は2026年改定後の算定要件と、導入・見送りそれぞれの判断材料を番頭代行視点でフラットに整理します。「導入しない」という判断にも十分な合理性がある、という立場で書いています。

2026年改定の2つの変更点:省令化と点数再設計

変化は大きく2点。医療法上の位置づけが格上げされたことと、診療報酬の細部が再設計されたことです。

第一に、医政局長通知の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」が、厚生労働省令「オンライン診療基準」に格上げされました(2026年4月施行)。都道府県への届出が義務化され、既存実施機関には2027年3月末までの猶予が設けられています。不適切事例に対する立ち入り検査も可能になりました。

第二に、診療報酬の主な点数は次のとおりです(2026年6月1日施行の診療報酬改定後の値。省令化は同年4月施行で、点数改定は2か月遅れる点に注意)。

  • 初診料(情報通信機器を用いた場合): 253点(対面291点の約87%)
  • 再診料(情報通信機器を用いた場合): 75〜76点(対面とほぼ同額。最終告示で確認推奨)
  • 外来診療料(情報通信機器を用いた場合): 73〜75点(対面とほぼ同額。最終告示で確認推奨)

再診料は対面とほぼ同額に見えますが、オンライン診療では外来管理加算(52点)が算定できないため、再診1回あたりの実収益は対面より低くなります。

加えて、2026年改定では「遠隔電子処方箋活用加算」(月1回10点・電子処方箋を使ったオンライン診療で算定)が新設されました。電子処方箋システムで薬剤情報確認と重複投薬チェックを行い、患者が指定する薬局へ電子処方箋を発行することが要件です。電子処方箋未対応のクリニックはこの加算が取れない構造になっています。

施設基準にも追加要件が入りました。「オンライン診療指針遵守チェックリスト」のウェブサイト掲示、向精神薬処方時の重複投薬チェック(電子処方箋管理サービス経由、令和10年5月31日まで代替手段可)、医療広告ガイドライン遵守の明文化など。届出は出して終わりではなく、掲示物管理や研修修了証の保管まで含めた継続運用が前提です。

初診OK拡大の現実的な適応範囲

「初診のオンライン診療が解禁された」という表現を文字どおりに受け取ると、判断を誤ります。

そもそも初診のオンライン診療は2022年4月に恒久化されており、2026年に新規解禁されたわけではありません。2026年度改定では精神科の初診オンライン診療が条件付きで解禁される見通しですが、条件は患者のそばに保健師等が同席すること、保健所・市町村とつながりのある未治療者・治療中断者・引きこもり者が対象となることなど、かなり限定的です。

初診で対応できる症状・疾患の範囲も依然として狭いままです。日本医学会連合の提言(2021年)が12領域別に整理しているとおり、次のような症状はオンライン初診では対応できません。

  • 呼吸困難、安静時の息苦しさ
  • 強い・悪化する胸痛や胸部圧迫感、突然始まる動悸
  • 強い腹痛、吐血、血便、下血
  • 意識障害、突然の激しい頭痛
  • 骨折疑いの外傷
  • 65歳以上や基礎疾患保有者の発熱・咳嗽
  • バイタル測定、触診・聴診・打診が診断に不可欠な症状

同提言は「問診と画面越しの動画のみで診断確定できる疾患はほとんどない」と明言しています。オンライン初診はあくまで「診断仮説の構築と、適切な次ステップへの誘導」と位置づけるのが現実的です。

処方制限も継続しています。麻薬・向精神薬・抗がん剤の初診処方は不可、糖尿病治療薬など安全管理が必要な薬も基礎疾患情報を把握できていない初診では処方不可、初診の処方日数は原則7日分が上限です。さらに「オンライン診療の情報は過去の診療情報として扱えない」との解釈が示されており、初診オンライン→再診オンラインのフローでも処方制限の一部は残ります。

「初診OK」は「なんでも初診OK」ではありません。適応症状・処方制限・本人確認(映像と公的証明書類の同時確認、電話のみは不可)といった運用ルールを正しく回せる体制があってはじめて、初診オンラインを安全に提供できます。

導入検討院・見送り院を分ける患者層と診療科

「周囲がやっているから、うちもやらないと」という空気はあるでしょう。ただ、2024年10月時点の実施医療機関は12,507件(厚労省, 保険診療届出ベース)、患者の利用率は3.5%(2024年度入院・外来医療等実態調査, 2,540人中)にとどまります。実施件数は2024年7月で144,966回・前年同月比約2倍に伸びていますが、患者側の利用は依然として一部に偏っています。

導入メリットが大きいのは、おおむね次のような特徴を持つクリニックです。

  • 都市部に立地し、平日日中に来院しづらい通勤者層の患者が多い
  • 高血圧・糖尿病・脂質異常症など慢性疾患の安定期患者の比率が高い
  • 既存患者の受診中断(投薬中断)の防止が経営課題になっている
  • 訪問診療や在宅医療と組み合わせ、看護師同席型の運用が可能
  • 競合クリニックがすでにオンライン対応しており、患者流出懸念がある

一方、次のような特徴を持つクリニックでは、見送りも十分に合理的です。

  • 患者層の中心が60代後半以上で、IT環境・リテラシーのハードルが高い
  • 初診の急性期対応が中心で、オンラインで完結できない症状が大半
  • 外科・整形外科・眼科・耳鼻科など、触診や専門機器検査が診断に不可欠な診療科
  • 院長1人+事務スタッフ少数の体制で、追加業務フローを組み込む余力がない
  • 地域密着型で、近隣の競合がオンライン対応していないため差別化効果も小さい

「導入したほうが新しい」「やらないと遅れている」という空気感に押されて始めると、稼働率が上がらず固定費だけが残ります。患者層と診療体制から逆算して、自院の実態に合うかを冷静に見極めることが先決です。院長の肌感として「うちの患者層には合わない」と感じているのであれば、その肌感はおおむね正しいでしょう。普及率3.5%という数字も、その肌感を裏打ちしています。

導入時のコスト構造と月50件運用の収益試算

導入の主な費用項目は、初期費用(システム導入・設定費)、月額利用料、決済手数料の3つ。主要事業者の月額利用料は数万円〜十数万円が中心、初期費用は無料〜数十万円規模、決済手数料は3〜4%台が一般的です。患者側に診察1回ごとの利用料(数百円)が発生するモデルもあります。

選定軸は、新患獲得を狙うのか既存の慢性疾患患者の再診フォローを軸にするのかで変わります。新患獲得重視なら患者向けアプリのユーザー基盤が大きいサービスが、再診フォロー中心なら固定費を抑えた稼働連動型サービスが向きます。電子カルテとの連携可否も実務的に大きな選定要素です。

収益面の試算として、月50件の慢性疾患患者(高血圧・糖尿病など)をオンライン再診に誘導するケースを置いてみます。

  • 再診料(情報通信機器)75点 × 50件 = 3,750点
  • 生活習慣病管理料(II)290点 × 50件 = 14,500点
  • 処方箋料 68点 × 50件 = 3,400点
  • 遠隔電子処方箋活用加算 10点 × 50件 = 500点
  • 月間合計(概算): 約22,150点 ≒ 約221,500円

なお生活習慣病管理料(II)290点は、療養計画書の作成・患者への説明・患者署名の取得・定期的な計画書更新が算定要件です。要件を満たさない月は算定不可となるため、上記試算は要件を継続的に満たした前提の上限値として捉えてください。2026年改定の他項目との整合確認は2026年診療報酬改定の論点整理記事も参考になります。

電子処方箋未対応の場合、遠隔電子処方箋活用加算(500点/月)が取れず、年換算で6,000点(約6万円)の差が出ます。金額の大きさよりも「電子処方箋対応の有無で算定構造に差が出る設計になった」方向性のほうが重要で、今後の改定でこの差はさらに広がる可能性があります。

ただし月50件を安定稼働させるまでの患者誘導・予約管理・スタッフ運用の負荷は点数試算ほど単純ではありません。投資回収を律速するのは月額費用ではなく運用負荷、というのが現場の実感です。「月額システム費を回収する売上はすぐ作れるが、月50件の安定稼働を作るには半年〜1年かかる」と見ておくのが現実的です。

「導入しない」と決めた院の代替策3点

「導入しない」と結論を出したクリニックも、それで思考停止していいわけではありません。次の3点は整理しておく価値があります。

第一に、既存患者から「オンライン診療はやっていますか?」と聞かれたときの説明を用意しておくこと。「対面診療を大切にしているため、現時点では対面のみで対応しています」というメッセージを、受付・電話応対のスタッフ全員が同じトーンで伝えられる状態にしておきます。

第二に、電話再診(情報通信機器ではなく音声のみ)との使い分け。電話再診は処方継続などに限定的に使える場面があります。完全な代替ではありませんが、慢性疾患の安定期患者向けに「ご都合がつかない月だけ電話で対応する」といった限定運用は選択肢として残ります。

第三に、見直しの条件を決めておくこと。たとえば「3年以内に患者層の年齢構成が変わったら再検討する」「近隣に同じ診療科のクリニックがオンライン対応した場合は再検討する」などのトリガーを設定しておけば、判断を先送りではなく「条件付きで保留している」立て付けにできます。

番頭代行視点での3つのチェックポイント

番頭代行として院長と一緒に検討するときの3つの観点を共有します。

1. 法制化対応の届出・記録保管が回せる体制

届出を出すだけでなく、研修修了証の管理、ウェブサイトでのチェックリスト掲示、処方制限の運用記録、本人確認の診療録記載まで継続運用が必要です。立ち入り検査が可能になった以上、「届出は出したが運用は形骸化」は避けたいところ。事務スタッフの作業負荷と責任分掌を、導入前に設計しておくことをおすすめします。人件費構造そのものの最適化余地がある院は、クリニック人件費の見直し記事も合わせて確認するとよいでしょう。

2. オペレーション設計の現実性

具体的には、診察室または院外スペースでのビデオ通話環境(静寂・プライバシー)、予約管理システムの対面枠とオンライン枠の分離、決済処理(クレジットカード決済が前提のシステムが多い)、処方箋発行・送付フロー(電子処方箋またはFAX送信)の4点です。導入後の追加業務がスタッフ1〜2人に集中しないか、業務フロー図を描いて確認します。

3. 投資回収シミュレーション

月50件・月100件・月150件など複数の稼働シナリオで損益分岐点を確認します。あわせて、稼働ゼロの月(季節要因や患者誘導が進まない月)でも固定費が回収できる収益構造になっているかを確認します。固定費全体の見直しが先という院は、クリニックのコスト削減ガイドで削減余地を棚卸ししたうえで投資判断に進むと整理が早くなります。

これらは「導入する/しない」の二択ではなく、「導入するならどこまで覚悟を決めるか」「導入しないなら何を代替手段にするか」を整理する作業です。患者層・診療体制・将来計画と合わせて考える必要があります。

まとめ:判断軸を持つことが先決

オンライン診療は2026年4月の省令化で、運用ルールと管理責任が一段重くなりました。診療報酬の細部も再設計され、電子処方箋対応の有無で算定構造に差が出る方向に動いています。ただ導入することが正解とは限りません。患者層・診療体制・地域特性によっては、見送りも十分に合理的な判断です。大切なのは「導入する/しない」を決めること自体ではなく、自院にとっての判断軸を明確に持つこと。判断軸が定まっていれば、外部環境が変わったときに見直すべきかどうかも迷いなく判断できます。


「導入する/しない」の判断、一人で抱え込まない

オンライン診療の導入判断は、点数の計算だけでは決まりません。患者層・診療体制・将来の事業計画まで含めて考える必要があります。

番頭代行は、社外CFO/COO/CHRO/CMO 兼 事務長として、院長の判断を伴走支援する立場です。「導入したほうがいいか」「見送ったほうがいいか」のセカンドオピニオンが必要なときは、お気軽にご相談ください。

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参考資料

一次資料(厚労省・公的機関)

解説記事・参考メディア