クリニックのコスト削減はどこから手をつける?事務長向け 優先順位と年270万〜600万円の削減試算

クリニック事務長が院長にコスト削減を提案するビジネス会議の様子
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クリニックのコスト削減は「費用構成の把握」と「優先順位の決定」から始める

結論を先にお伝えすると、クリニックのコスト削減で最初にやるべきことは「自院の費用構成を相場と比較すること」と「診療科特性に合わせた優先順位を決めること」の2つです。 相場から外れている費目を特定し、削減インパクトの大きい順に着手する。これが遠回りに見えて最も確実な進め方です。

「利益率が下がっている。何とかしてほしい」――院長からそう言われて、何から手をつけるか迷った経験はないでしょうか。その焦りは、あなただけのものではありません。

第25回医療経済実態調査(2025年11月公表)によれば、医療法人立の無床診療所の損益差額率(売上に対する利益の割合)は、2023年度の9.3%から2024年度には5.4%へと、わずか1年で3.9ポイント悪化しました。赤字施設の割合は37.4%で、全国の3軒に1軒以上が赤字経営です。日本医師会が2025年9月に公表した「令和7年 診療所の緊急経営調査」でも、医療法人立診療所の本業赤字割合は45.2%に達し、医業利益率は平均6.7%から3.2%へ半減しています(日本医師会, 2025)。

背景にあるのは物価高騰と人件費上昇です。2026年度診療報酬改定の医科診療所への物価対応配分は+0.10%にとどまり、改定だけで経営を立て直すのは困難です。「収入増を待つ」のではなく「支出を見直す」ことが現実的な打ち手です。社外CFOの役割の一つも、この「支出の構造を見直す」作業にあります。

本記事では、月売上800万円規模の医療法人立無床診療所をモデルに、事務長が院長に提案できる優先順位と着手目安、削減見込み額の試算を費目別にお伝えします。

クリニックの費用構成を「相場」と比べる

コスト削減の第一歩は、自院の決算書を開いて費目ごとの比率を相場と突き合わせることです。第24回医療経済実態調査(厚生労働省, 2023年実施)および第25回(2025年公表)のデータを基に、診療所の主な費目比率を確認しましょう。

個人立診療所の人件費比率は医業収益の約24.6%、医療法人立では約49.0%と大きく異なります。個人立では院長報酬が人件費に含まれないため低く見えますが、実質的な負担は変わりません。

主要費目の目安は以下のとおりです。

  • 人件費(給与費): 医業収益の40〜50%(医療法人の場合)
  • 医薬品・材料費: 10〜20%(診療科により変動)
  • 委託費・外注費: 5〜10%
  • 設備関連費(リース料・減価償却): 5〜8%
  • その他(光熱費・通信費・消耗品等): 5〜10%

相場から大きく外れている費目こそ、最初に手をつけるべきポイントです。裏返せば人件費に手をつけずとも、医薬品・材料費・委託費・経費を合わせた3〜5割の領域に着手余地があり、事務長が動ける範囲は狭くありません。

診療科によってコスト削減の優先度は変わる

診療科ごとに費用構造が異なるため、優先施策も異なります。第25回医療経済実態調査によれば、医療法人立無床診療所では診療科別の損益差額率(2024年度)の差が明確です。

  • 損益が薄い診療科: 外科0.4%、精神科1.6%、整形外科3.1%
  • 比較的余裕のある診療科: 耳鼻科9.5%、眼科8.7%、皮膚科8.1%

外科や整形外科は医療材料費の比率が高く、仕入れ価格の見直しが利益に直結します。内科や皮膚科は処置・検査の算定漏れが起きやすく、レセプト点検が効果の出やすい打ち手です。

診療科別・最優先施策の早見表

診療科最優先施策理由
整形外科・外科医療材料費の交渉と在庫最適化消耗品費比率が高く単価交渉の効果が大きい
内科・皮膚科レセプト算定漏れ防止処置加算や検査加算の取り漏れが多い
耳鼻科・眼科委託契約・固定費の見直し余裕があるうちに固定費構造を整える

自院の診療科を踏まえ、次に紹介する4つの施策から優先順位を決めるのが効率的です。

着手コストゼロで始められる4つの経費削減施策

外部投資をともなわず事務長の判断で動かせる施策が4つあります。以下は月売上800万円の医療法人立無床診療所を前提とした試算です。

施策1: レセプト算定漏れ防止 — 年60万〜200万円の回収余地

コスト「削減」ではなく収入の「回収」ですが、利益改善へのインパクトが最も大きい施策です。算定漏れ(本来請求できる診療行為を請求し損ねること)は、規模によっては年間60万〜200万円、ケースによっては数百万円の損失になることもあります。主な漏れ要因は次の3つです。

  • カルテに記載はあるが、レセプトに反映されていない処置・検査加算
  • 病名と処置の整合性確認漏れによる返戻
  • 算定要件改定への対応遅れ

ニチイ学館のコラムでも指摘されている通り、算定漏れはスタッフの技量に左右されやすく、点検の標準化と二重チェック体制が効果的です。

事務長の実務アクション:

  • 直近3か月のレセプトを抽出し、算定可能な加算(特定疾患療養管理料、外来管理加算など)の取得率を確認する
  • 電子カルテのマスタ設定が最新の診療報酬改定に対応しているか確認する
  • 医事スタッフと月1回の算定レビュー会議を設ける

着手難易度は低く、外部コストもほぼかかりません。1〜3か月で効果が見え始めます。

施策2: 医薬品・材料費の業者交渉と在庫最適化 — 年160万〜300万円の削減余地

医薬品・材料費は診療科によっては医業収益の15〜20%を占めます。月売上800万円なら医薬品・材料費は月120万〜200万円程度で、ここに10〜15%の改善余地があると見込んだ試算です。開業時の取引条件をそのまま継続しているクリニックは少なくありません。

長年付き合いのある卸への価格交渉は、関係性を気にして躊躇する事務長も少なくありません。一方で病院を対象とした福祉医療機構の2020年度調査でも、仕入れ条件は施設間でばらつきが大きいと報告されており、クリニックでも同様の傾向が推察されます。

事務長の実務アクション:

  • 現在の仕入れ先と単価表を一覧化する
  • 主要医薬品・材料の上位30品目を抽出し、複数の卸に相見積もりを依頼
  • 使用頻度の低い在庫の圧縮と期限切れ廃棄の削減(発注ロット見直しだけで数万円単位の改善)
  • 採用品目のスリム化(同効薬の整理)/ジェネリック切替余地の確認

「この品目は他社の方が2割安い」といった差が見えると既存業者への交渉材料になります。「この品目は後発品でも同等の効果が得られます」と具体的な品目名を添えて院長に相談すると話が進みやすくなります。

施策3: 委託契約の相見積もり — 年50万〜100万円の削減余地

清掃・リース・保守といった委託契約の見直しで、年間50万〜100万円の削減が見込めます。

参考になるのが腎・循環器もはらクリニックの事例です。2024年3月から業務委託・保守事業者を集めた説明会と個別面談を重ねた結果、業務委託費・医療機器保守費で年間約94.5万円(委託費86万円+保守費8.5万円)の削減を実現しました。

事務長の実務アクション:

  • 全契約を1枚のシートに並べる(契約名・月額・契約期限・自動更新の有無)
  • 説明会形式で経営方針を共有してから各事業者と個別に交渉する
  • 更新時期の3か月前に相見積もりを取るスケジュールを組む

「この契約、5年前から一度も見直していない」という発見が必ず出てきます。説明会→個別面談の手順を踏めば、関係性を損なわず価格交渉を進めやすくなります。

施策4: 電力プランの切り替え — 年4万〜10万円の削減余地

電力会社の見直しは金額こそ小さく見えますが、事務作業1日で完了する手軽さが魅力です。クリニックの電気代は空調・医療機器の稼働により一般オフィスよりも高額になりがちで、新電力への切り替えで小規模クリニックでも年間4万〜10万円の削減が見込めます。

事務長の実務アクション:

  • 直近12か月の電気使用量と料金を一覧化する
  • エネチェンジなどの比較サイトで複数社のシミュレーションを取得(1時間程度)
  • 契約容量(kVA)が実態に合っているか確認(切替なしでも基本料金を下げられる場合あり)

なお「LED化で年300万円削減」といった数値は病院規模の事例で、クリニック規模では同水準は見込みにくく、まずは電力プラン切替から着手するのが現実的です。

4施策の合計削減余地

施策年間削減余地着手主体必要期間の目安
レセプト算定漏れ防止60万〜200万円事務長単独1〜3か月
医薬品・材料費見直し160万〜300万円事務長+院長承認3〜6か月
委託契約相見積もり50万〜100万円事務長+院長承認2〜4か月
電力プラン切り替え4万〜10万円事務長単独1か月
合計274万〜610万円

※試算はあくまで目安であり、診療科・規模・契約条件によって実績値は異なります。

年商の3〜6%相当の利益改善余地です。第25回医療経済実態調査が示した損益差額率の悪化幅(3.9ポイント)を上回るケースもあります。

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IT・デジタル化で「作業を減らす」中期施策

即効性のある4施策で止血した後は、中期的に人件費の構造改善に取り組みます。人件費は最大の費目ですが、安易な人員削減は医療安全とサービス品質に直結します。「人を減らす」のではなく「作業を減らす」アプローチが基本です。

医療法人社団平郁会(東京・神奈川・千葉で17拠点)では、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション:定型業務を自動処理するソフトウェア)の導入により、電子カルテ関連の入力・登録作業を中心に月間150時間以上の作業削減を実現しました(RoboTANGO導入事例)。福岡県の浅川学園台在宅クリニックでは、休診日に院長が担当していた在宅療養計画書・訪問看護指示書の作成にRPAを導入し、毎月10時間弱(最大75%)の業務削減を実現しています(RPA technologies, 2023年)。

1拠点のクリニックでも「院長の時間を奪っている定型書類作業」から着手すれば十分に効果が出ます。RPAに限らず、まずは「毎月繰り返している定型作業」をリストアップし、自動化や外部委託の対象を特定することから始めてみてください。

削減してはいけないコストの線引き

コスト削減に取り組むとき、最初にやるべきは「ここは触らない」という線引きです。感染対策費を削ったクリニックの話を複数聞いています。手袋のグレードを落としたら患者から「薄くなった」と指摘が入り、待合室の清掃頻度を減らしたらGoogleクチコミに「清潔感がない」と書かれた。年間数万円の節約で月間数十人の新規患者を失っては、削減ではなく損失です。

感染対策用品・滅菌設備の保守・スタッフの安全研修。予約システムや患者対応の人員配置。医療廃棄物処理や施設基準の維持に関わる費用。これらは「削減候補に載せてはいけない費目」です。

事務長としてお勧めしたいのは、院長への提案書に必ず「除外リスト」を添付することです。「この費用は削減対象に含めていません」と先に見せることで、院長は安心して残りの提案を検討できます。削減の提案書に「守る費目」を明示する。この一手間が、提案への信頼度を大きく左右します。クリニック経営の見落としやすい課題を事前に把握しておくと、除外リストの精度がさらに高まります。

院長提案は「数字・優先順位・リスク」の3点セットで組み立てる

削減対象と「削らない費目」が整理できたら、次は院長の承認です。どれだけ合理的な施策でも、院長が首を縦に振らなければ進みません。

院長は臨床と経営の判断を並行で求められるため、判断材料が整っているかで意思決定スピードが変わります。「数字」「優先順位」「リスク」の3点をワンセットで示すのが効果的です。

数字で示す: 「電気代が高い気がします」ではなく「直近12か月の月平均は○万円で、同規模クリニックの相場より○%高い」と数字で示すことが出発点です。院長が数字を見て「確かにそうだな」と思った瞬間に、提案の8割は通ったようなものです。

先回りで安心材料を: 院長がよく口にするのは「切り替えて品質が落ちたらどうする?」という懸念です。「品質は変わりません」「解約違約金はありません」「もし問題があれば戻せます」と回答を用意しておく。先回りの安心材料があるかないかで、院長の反応はまるで変わります。

小さく始めて実績を作る: 最初から大きな提案を持っていくと身構えられるので、「まず電力の1契約だけ試してみませんか」と小さく始めるのも有効です。実績が出れば次の提案が通りやすくなります。提案書には必ず「3か月以内に年間○万円の削減効果が見込めます」と期限と金額を書いてください。

院長提案用 優先順位チェックリスト(着手目安付き)

提案準備を3週間で整え、その後2〜3か月で施策を順次実行する想定です。

第1週:現状把握と数値整理

  • ☐ 直近1年の損益計算書から費用構成比(人件費・医薬品材料費・委託費・水道光熱費)を算出
  • ☐ 診療科別損益差額率を厚労省・第25回医療経済実態調査の業界平均と比較
  • ☐ 主要支払先(卸・委託先・リース)の契約期間と更新時期を一覧化

第2〜3週:優先順位付けと院長提案

  • ☐ 診療科特性に基づき施策1〜4の優先順位を決定し、削減見込み額(最低・最高)を試算
  • ☐ 着手主体(事務長単独/院長承認が必要)を整理
  • ☐ 月次キャッシュフロー改善額への換算とリスク評価(取引先関係・患者への影響)
  • ☐ 除外リスト(削減候補に載せない費目)を別シートで明示
  • ☐ 院長への提案と承認取得

第2〜3か月:施策の実行フェーズ

  • ☐ レセプト点検の標準化・二重チェック体制構築(施策1)
  • ☐ 主要医薬品・材料の相見積もりと単価交渉(施策2)
  • ☐ 委託契約の説明会・個別面談・条件見直し(施策3)
  • ☐ 電力プランの比較・切り替え(施策4)

このチェックリストを埋める過程で提案資料がそのまま整います。削減額は「最低〜最高」の幅で示すほうが院長の信頼を得やすくなります。

試算を実行に移すための3つのポイント

試算を「数字遊び」で終わらせないために、現場で機能する手順を3点に絞ります。

1. 社内データを2週間で集める:直近1年の損益計算書・主要支払先一覧・月次レセプト査定状況を、経理やレセプト担当に依頼して概算ベースで集約します。

2. 院長提案は四半期決算後の1〜2週間以内:院長が経営数値に意識が向くタイミングで、削減見込み額(最低〜最高)と着手主体を一枚資料にまとめて提示すると承認を得やすくなります。

3. 外部リソースを部分的に活用する:相見積もりは購買代行、レセプト点検は外部点検会社、委託契約交渉は社外CFO/COO/CHROなど、自院に不足する機能だけ外部で補う発想が現実的です。

「全部を一人で抱え込む必要はない」――これも大切な視点です。費目の分析、業者交渉の段取り、院長への提案資料づくり。「どこから手をつけるか、一緒に整理したい」と感じたら、番頭代行の無料コスト診断をご活用ください。

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クリニックのコスト削減でよくある質問(FAQ)

クリニックのコスト削減で何から始めればいい?

まず自院の決算書を開き、費目ごとの比率を相場と比較してください。医療法人立クリニックの場合、人件費40〜50%、医薬品・材料費10〜20%、委託費5〜10%が目安です。相場から大きく外れている費目が、最初に着手すべきポイントになります。次に診療科特性で優先施策を絞ります。整形外科・外科は医療材料費の交渉、内科・皮膚科はレセプト算定漏れ防止、耳鼻科・眼科は委託契約の見直しが基本軸です。

人件費に手をつけずに経営改善は可能ですか?

可能なケースが多くあります。本記事の4施策はいずれも人件費以外の領域で、月売上800万円規模で年間270万〜600万円の削減余地が見込めます。

事務長一人でできる経費削減施策はある?

電力の切り替えシミュレーション取得、委託契約の一覧表作成、レセプト算定漏れの確認は、事務長の権限内で着手できます。業者交渉やジェネリック切り替えは院長判断が必要なため、データに基づく提案資料を準備した上で承認を得る流れが効果的です。

業者との関係を悪化させずに価格交渉する方法はありますか?

腎・循環器もはらクリニックの事例が参考になります。説明会で経営方針を共有したうえで個別面談で交渉する手順を踏めば、関係性を損なわず合意形成しやすくなります。

人件費を削減するとスタッフのモチベーションが下がりませんか?

人件費の構造改善は「人を減らす」ことではなく「作業を減らす」ことがポイントです。RPAや業務フロー見直しで定型作業を削減すれば、スタッフは患者対応など付加価値の高い業務に集中でき、結果的にやりがいの向上につながります。

コスト削減と医療の質を両立できますか?

「削ってはいけないコスト」の線引きを先に行うことで両立できます。医療安全・患者満足度・法令遵守に関わる費用を除外リストとして明示し、それ以外の費目で削減余地を探る進め方が基本です。

試算を院長に説明するとき、どう伝えれば納得を得やすいですか?

「数字・優先順位・リスク」の3点セットで提示する形が有効です。削減額は「最低〜最高」の幅で示し、出典(厚労省調査など)を併記すると信頼性が高まります。

参考資料