この記事でわかること
- 2026年6月施行の診療報酬改定で、クリニック事務長が5月中に必ず終えるべき届出
- ベースアップ評価料の点数引き上げと、新規・継続施設で異なる算定区分
- 生活習慣病管理料・特定疾患療養管理料・在宅医療の主な変更点と注意ポイント
- 物価対応料・電子的診療情報連携体制整備加算など、見落としやすい新設項目
- 自院が関係する領域を絞り込むためのシミュレーション手順とFAQ
「改定資料の量が膨大で、どこから手をつければいいのか」——4月に入ってから、事務長・管理職の方からよくいただくご相談です。月次試算・補助金・スタッフ管理を兼任しながら、改定資料を全部読み込む時間を作るのは現実的ではありません。
本記事では、2026年診療報酬改定(6月1日施行)について、外来クリニック・在宅医療を行う診療所の事務長が5月中に終えるべき届出と、自院に効く可能性のある増収機会、そして見落としやすい落とし穴だけに絞ってご案内します。網羅ではなく、「明日からの動き」が描けることを優先しています。
5月中に動くべき5つの領域——事務長が押さえる改定の全体像
本体改定率は+2.41%(令和8年度)、令和8・9年度平均で+3.09%です(厚労省, 2026年3月告示)。プラス改定ですが、薬価は▲0.86%の引き下げで、院内処方が多い診療所では実質的な増収が薄まる構造です。外来クリニック・在宅医療を行う診療所にとって、特に影響が大きい変更は次の5領域です。
- ベースアップ評価料: 点数の大幅引き上げと、5月中の再届出
- 物価対応料(新設): 届出不要・自動算定で初診2点/再診2点
- 生活習慣病管理料: 患者署名廃止と充実管理加算(10〜30点)の新設
- 在宅医療: 在医総管に重症患者割合20%以上の要件追加(月2回以上区分)
- 電子的診療情報連携体制整備加算: 旧DX推進加算からの再編、最大15点
このうち、事務長が4〜5月に動かないと「6月から算定できない」という機会損失が発生するのが、ベースアップ評価料と電子的診療情報連携体制整備加算です。まずはこの2つから整理します。
ベースアップ評価料——5月中の再届出を最優先で終わらせましょう
最大の増収機会はベースアップ評価料の点数引き上げです。5月中(厚生局への届出目安: 5月18日)に全施設が届出を済ませないと、6月以降の算定はできません。なお、5月18日はあくまで目安で、各地方厚生局によって期限が前後する場合があります。所管の地方厚生局・保険医協会の最新通知を必ずご確認ください。2026年3月31日時点で旧ベースアップ評価料を届け出、令和6年3月以降継続的に賃上げを実施していた施設(継続施設)も、新点数で算定するには再届出が前提です。新規施設と継続施設で点数が異なります。
| 算定区分 | 現行 | 2026年6月〜(新規) | 2026年6月〜(継続) |
|---|---|---|---|
| 初診時 | 6点 | 17点 | 23点 |
| 再診時等 | 2点 | 4点 | 6点 |
| 訪問診療(同一建物以外) | 28点 | 79点 | 107点 |
| 訪問診療(同一建物居住者) | 7点 | 19点 | 26点 |
(厚労省, 2026年3月告示)
増収分は経営の自由に使えない——賃金改善への充当義務
ベースアップ評価料は算定収入の全額を対象職員の賃金改善に充当する義務があります。手取り増収ではなく給与原資が増える制度として、院長と早めにすり合わせてください。弊社支援先でも、増収分を運転資金に充てる前提で経営計画を組んでいた院が、後から組み替えになりました(院名は伏せています)。最初に「収入ではなく原資である」と伝え切るのが先決です。
2026年改定では対象職種が拡大され、事務職員と40歳未満の医師も追加されました。これまで看護師・コメディカルに限られていた配分対象が広がるため、賃金改善計画は5月中に組み直してください。
届出を逃すと毎月の算定収入を取りこぼし続ける
継続施設であっても、再届出を怠ると新点数(継続施設区分)での算定ができない運用です。届出月の翌月以降の算定となり、1〜2か月の機会損失が直接収入に響きます。院内処方が多い院では薬価▲0.86%で本体プラス分が相殺されやすく、ベースアップ評価料の取りこぼしは経営インパクトが大きい論点となります。
物価対応料——届出不要で初診2点・再診2点が自動算定
エネルギー・物流コスト上昇への対応として2026年6月から新設される加算です。届出不要・自動算定で、初診2点・再診2点・訪問診療3点が乗ります。レセコン・電子カルテのマスタ更新については、6月請求前にベンダーへの確認を忘れずに。
生活習慣病管理料の見直し——事務負担減と加算3区分の新設
外来クリニックで影響が大きい論点です。事務的な負担が減り、加算で取れる点数が増えます。
患者署名の廃止——療養計画書の運用負荷が大きく下がる
これまで療養計画書には患者本人の署名が必要でしたが、2026年6月から不要になります。受付・診察室での署名取得の運用負荷が下がるため、回転の速い外来では実務的なメリットが大きい変更です。ただし、計画書そのものの作成義務は残ります。電子カルテ上のテンプレート運用や、患者への説明手順は引き続き整備してください。
充実管理加算3(10点)から優先取得する
外来データ提出体制を届け出れば、最も取得しやすい充実管理加算3(10点)から算定できます。新設の充実管理加算は3区分で、要件に応じて10点・20点・30点が算定されます。たとえば充実管理加算3を糖尿病患者月50人に算定すると、10点×50人×10円=月5,000円、年間で約60,000円の上乗せです。すでにデータ提出を行っている院は、加算3の届出を5月中に先に終わらせてください。
眼科医療機関・歯科医療機関連携強化加算(各60点/年1回)の新設
糖尿病患者の網膜症スクリーニングや歯周病管理で連携実績があれば、年1回の算定機会となります。眼科医療機関連携強化加算と歯科医療機関連携強化加算が各60点(年1回)で新設されました。なお、生活習慣病管理料(Ⅰ)の算定に、6か月に1回の血液検査が要件として義務化されるため、患者の検査スケジュール管理は院内ルールとして整備しておきましょう。
特定疾患療養管理料と在宅医療——見落としやすい要件追加
特定疾患療養管理料は要件のみ、在医総管は重症患者割合20%が新たな関門です。
特定疾患療養管理料——NSAIDs除外と院内掲示義務の追加
点数据え置きで、要件のみ追加されました。NSAIDs投与の除外規定と、長期処方(28日以上)およびリフィル処方箋に関する院内掲示義務が新たに加わっています。掲示物の更新は5月中に終わらせてください。事務長の実感として、改定対応でよくあるのが「掲示物の更新を後回しにして、6月以降の指導で指摘される」事例です。先日ご支援した診療所でも、継続施設の再届出に気を取られ、院内掲示の差し替えを失念しかけたケースがありました(院名は伏せています)。
在医総管の重症患者割合20%要件——月2回以上区分の算定可否を左右
在宅時医学総合管理料(在医総管)の月2回以上訪問する区分に、重症患者の割合が20%以上という要件が追加されました。訪問診療料本体は+2点の微増ですが、訪問頻度の高い院では算定可否そのものに関わります。自院の重症患者割合を5月中に試算してください。20%を下回る場合は月1回区分への変更や患者紹介の調整など運用面の見直しを先に動かしてください。
医療DX系加算の再編——電子的診療情報連携体制整備加算の届出
電子的診療情報連携体制整備加算は5月中に届出してください。旧「医療DX推進体制整備加算」は2026年6月から再編され、マイナ保険証の利用実績と電子処方箋への対応で初診時最大15点・再診時2点が算定可能です。旧加算からの自動移行ではないため、5月中の届出を怠ると6月以降の算定ができません。電子処方箋が未導入の院は、6月時点での算定は見送り、中長期の整備計画として年度内に組み立ててください。
事務長の4ステップ実行プラン——4〜5月の動き方
ステップ1: 自院の算定項目の棚卸し(4月中)
自院が現時点で算定している項目をすべて書き出します。レセコン・電子カルテの算定設定一覧を出力し、ベースアップ評価料・生活習慣病管理料・特定疾患療養管理料・在医総管・医療DX系加算の現状を把握する作業です。「何を算定しているかが曖昧」な状態で改定対応を始めると、抜け漏れが発生しやすくなります。
ステップ2: 5月中に終える3つの届出(目安: 5月18日まで)
- ベースアップ評価料(再届出含む全施設)
- 充実管理加算3(外来データ提出体制を届出済みの院)
- 電子的診療情報連携体制整備加算(マイナ保険証実績・電子処方箋対応がある院)
ステップ3: 賃金改善計画の策定(5月中)
ベースアップ評価料の増収分は対象職員の賃金改善に充当する義務があります。事務職員・40歳未満医師まで対象が拡大されたため、配分シミュレーションを5月中に固めて院長と合意形成しておきましょう。
ステップ4: 6月以降の中長期テーマの整理
電子処方箋の導入、外来データ提出体制の整備など、6月までに間に合わない項目は、年度内の中長期テーマとして整理します。次回改定(2028年)を見据えた準備にもつながります。
落とし穴チェックリスト——押さえるべき5つの論点
- 薬価▲0.86%との相殺: 院内処方が多い院では実質増収が薄い前提で試算する
- 在医総管の重症患者割合: 月2回以上訪問区分は20%以上要件を確認
- DX系加算の再編: 旧加算からの自動移行ではなく、新加算は届出が必要
- 賃金改善義務: ベースアップ評価料は経営の自由度がある収入ではない
- 算定漏れを防ぐ確認フロー: ①5月中にレセコン・電子カルテのマスタ更新をベンダー依頼 → ②6月の最初のレセプト請求前に新点数で算定されているかをサンプル抽出で確認
よくある質問(FAQ)
Q1. 5月中に届出が間に合わなかった場合、どうなりますか?
6月1日からの新点数算定ができません。届出月の翌月以降からの算定となり、6月診療分はベースアップ評価料が算定不可となります(未届出での算定継続は不正請求となります)。継続施設区分も再届出が前提です。算定スタートが後ろ倒しになるほど、賃金改善計画の原資も組み直しが必要になります。
Q2. うちは小さなクリニックなので、ベースアップ評価料は関係ないのでは?
無床診療所でも算定可能です。外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)は、初診・再診・訪問診療を行うすべての医療機関が対象で、規模要件はありません。再診月200件のクリニックなら、継続施設区分で月12,000円程度(6点×200件×10円)の算定収入になります(全額を職員賃金改善に充当する義務あり)。
Q3. 院長に「忙しいから来年やる」と言われそうです。どう説明すれば良いでしょうか?
「再届出を怠ると6月以降の算定そのものができない」点が説得材料です。先送りすれば毎月の算定収入を取りこぼし続けます。
Q4. 物価対応料は本当に届出不要ですか?
届出不要で2026年6月から自動算定されます。ただし、レセコン・電子カルテのマスタ更新が反映されているかは6月の請求前にベンダーに確認しておきましょう。未更新だと算定漏れが発生します。
Q5. 在宅医療を強化したいのですが、月2回訪問区分は今後取れなくなりますか?
重症患者(別表8-2・別表8-3該当)の割合が20%以上であれば取れます。20%未満なら月1回区分への変更、または重症患者の紹介受け入れによる構成見直しが必要です。
6月に後悔しないための5月の過ごし方
本体プラス改定でも、5月中に動けるかどうかで6月以降の収入は変わります。改定資料を全部読むより、自院で算定している項目に絞って5月中の届出を確実に終えることが最大の収入インパクトです。算定可能な加算が複数ある院ほど、棚卸し→届出→賃金充当計画の3点を順番に詰めていくと迷いが減ります。
人件費率の上昇に備えた指標管理はクリニック経営指標の読み方、院長への財務説明は決算書活用ガイド、薬価▲0.86%を吸収するコスト面はクリニックのコスト削減 実務ガイドにまとめています。
「全部やろうとすると手が回らない」「院長への説明資料をどうまとめるか」と感じておられる場合は、番頭代行の無料相談をお使いください。30分のオンライン相談で、自院の算定項目に対する改定の影響と、5月までの届出優先順位を一緒に整理します。「売り込みを聞かされる場」ではなく、「事務長と一緒に頭を整理する場」としてご活用いただければと思います。
本記事の算定要件・届出期限は2026年4月時点の情報を基にしています。最終的な確認は所管の地方厚生局・保険医協会の最新通知でお願いします。
参考資料
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」(2026年3月告示、6月1日施行)
- 厚生労働省「ベースアップ評価料の見直しについて」(2026年3月告示)
- 厚生労働省「診療報酬改定説明資料等について」(電子的診療情報連携体制整備加算含む、2026年3月告示)



