訪問診療への参入を検討するクリニック院長へ — 在宅医療の基本と2026年診療報酬改定の要点

医師が高齢患者の肩に触れながら訪問診療を行う様子
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この記事でわかること

  • 訪問診療と往診の違い、在宅医療の収益構造の基本
  • 在宅時医学総合管理料(在医総管)の点数と、患者1人あたり月収入の目安
  • 2026年6月1日施行予定の診療報酬改定で、在宅医療の体制要件がどう変わるか
  • 週2日午後・10名規模で始めるスモールスタートの収支イメージ
  • 在支診の届出区分を段階的に上げていく参入ロードマップ

「外来だけでは患者数が頭打ち」「通院困難な患者から訪問の相談が増えた」「ただ24時間対応の負担と収益構造の不透明さで踏み出せない」——在宅医療未経験のクリニック院長から、最近よくいただくご相談です。

いざ訪問診療を調べ始めると、算定要件・体制基準・改定の影響が複雑で、どこから手をつけるべきか見えにくいのが実情です。さらに2026年6月1日施行予定の診療報酬改定で、在宅医療の体制要件は一段と厳しくなる方向に動いています。

本記事では、在宅医療の基本構造(訪問診療と往診の違い、在医総管の仕組み)から、2026年改定の主要な論点、外来クリニックが小さく始めて段階的に育てる参入戦略までを、院長が経営判断のために押さえるべき視点で整理します。

訪問診療と往診は別物です

在宅医療の収益を考えるうえで最初に整理しておきたいのが、訪問診療と往診の違いです。同じ「医師が患家に出向く」行為でも、算定上はまったく別の枠組みで扱われます。

項目訪問診療往診
性質計画的・定期的な訪問(月2回など)患者・家族の急な要請に応じた臨時訪問
主な算定在宅患者訪問診療料(I)888点/回(同一建物外)往診料 720点
訪問のきっかけあらかじめ立てた診療計画当日の連絡を受けて訪問

実際の在宅医療は、計画的な訪問診療と緊急時の往診を組み合わせて成り立ちます。月2回の訪問診療で病状管理を行いつつ、発熱・転倒など想定外の事態は往診で対応する——これが基本動作です。在宅療養支援診療所(在支診)の届出は、この往診体制(24時間の連絡受け・緊急訪問可能な体制)が要件の中心になります。

参入検討段階では「訪問診療だけ計画的にやる」ことも制度上は可能ですが、患者・家族の信頼を得て紹介を増やすには、夜間・休日の対応体制をどう作るかがセットの論点です。

在医総管が在宅医療の主力収入

訪問診療料(1回ごと)に加えて、月単位で算定する在宅時医学総合管理料(在医総管)が、在宅医療の収益の柱です。月1回算定で、診療所の在支診区分・訪問頻度・患者の居住形態(居宅/同一建物)によって点数が決まります。

例として、在支診の届出をしていないクリニック(区分3)が、居宅の患者を月2回訪問するケースを試算します。以下は令和6年版の告示点数に基づく概算であり、個院の状態・算定区分・患者構成により実際の収入は大きく異なります。

  • 訪問診療料(I)888点 × 2回 = 1,776点
  • 在医総管(区分3・月2回・居宅1人)= 2,735点
  • 合計 ≒ 4,500点 = 月約45,000円/患者(在宅部分の目安)

在宅報酬部分のみで患者1人あたり月約4.5万円、これに外来並行収入や各種加算を含めると月5〜6万円台が目安となります。来院1回ごとの会計ではなく、患者1人を月単位で管理する仕組みのため、患者数が積み上がるほど月次収入が安定します。10名規模で在宅部分のみ約45万円・外来加算等込みで約60万円前後、30名規模なら在宅部分のみ約135万円・加算込みで月150万円台が目安となる収入構造です。

24時間体制を整えて在支診を届け出ると区分が3→2→1へ上がり、点数も段階的に上昇します。さらに機能強化型在支診(自院または連携で常勤医3名以上、緊急往診・看取り実績など)に昇格すると上位点数を算定できる仕組みです。最初から機能強化型を狙うと要件のハードルが高いため、後述の段階戦略で順に上げるのが現実的です。

2026年診療報酬改定で押さえるべき論点

2026年6月1日施行予定の改定で、在宅医療には複数の見直しが予定されています。前提として、現行(令和6年版告示)の在医総管の本体点数は据え置きとされる見込みです。「400点→800点へ倍増」と紹介されている数字は在宅医療充実体制加算の話で、本体と加算を混同すると経営計画を見誤ります。届出スケジュールや増収機会の整理は、診療報酬改定2026クリニック事務長が5月までにやるべき届出と増収機会も併せてご覧ください。

新規参入を検討する院長にとって、押さえるべき論点は次の4点です。

  • 重症患者割合20%以上の要件追加:在医総管の月2回算定区分に新設されます。月2回訪問患者の延べ診療月数が直近3か月で30月未満(おおよそ月10名規模に達するまでの参入初期)は適用外とされる見込みで、立ち上げ期からいきなり重症対応を求められるわけではありません。
  • 代行委託の規制強化:コールセンターによる電話受け自体は引き続き可能ですが、24時間の連絡受けの一次窓口は自院対応が原則となります。代行医師に往診させる場合も、事前面談・診療方針の共有が要件化されます。
  • 連携型機能強化型在支診の要件細分化:「ア」「イ」要件に分かれ、機能強化型としての点数算定は自院で月4回以上の往診体制などを満たす「ア」要件のクリニックに限定される予定です。
  • BCP(業務継続計画)策定の義務化:地震・感染症拡大などへの備えとして在支診の施設基準に追加されます。経過措置は設けられるものの、計画書のひな型整備と定期見直し体制が必要になります。

参入を検討する院長から見れば、「点数の上振れより、24時間体制と重症対応の準備の方が経営判断の重み」が増す改定です。参入検討段階で、24時間体制・重症対応・BCPといった体制要件をロードマップに組み込んでおく必要があります。

収益シミュレーション:週2日午後・10名のスモールスタート

いきなり常勤医を増やして本格的に始めるのは、患者紹介が読めない参入初期にはリスクが高すぎます。既存リソースで小さく始めるシナリオで試算します。

前提:在支診なし(区分3)、院長が週2日午後を訪問診療に充てる、患者10名(居宅・月2回訪問)、看護師1名同行、車1台運用。

項目月額目安
収入(訪問診療料 + 在医総管 × 10名)約60万円
変動費(同行看護師人件費・車両費・燃料・医療材料)約20万円
粗利(変動費控除後)約40万円

収入の算定根拠:訪問診療料(I) 888点×2回=1,776点 + 在医総管(区分3・月2回・居宅) 2,735点 ≒ 4,500点/患者・月(約4.5万円) × 10名 ≒ 45万円が在宅部分の目安。これに外来並行収入・各種加算等を加えて月60万円前後となる試算です。

いずれの数値も令和6年版告示点数に基づく概算であり、個院の人件費水準・移動距離・患者構成・算定区分により実際の収支は大きく異なります。利益を保証するものではありません。

院長の時間は既存外来の延長で使うため、追加固定費は限定的です。患者10名で月約40万円の粗利が最初のキャッシュフローの形(目安)。

ここからの段階移行は固定費前提を分けて考える必要があります。Step 2想定(既存外来と両立しつつ専任スタッフを最小限に置く中間段階・月固定費100万円規模)では、患者1人あたり粗利を約3.5万円と仮置きすると、月固定費100万円 ÷ 粗利3.5万円 ≒ 患者29名でおおむね損益分岐の領域に入る計算です。

一方、Step 3〜4の本格体制(非常勤医・専任スタッフ・複数車両を抱える都市部専門クリニック型)では月固定費250〜450万円、損益分岐患者数も70〜130名に跳ね上がります。固定費を先行させると紹介ルートが立つまでの数か月で資金繰りが詰まりかねません。Step 2の29名前後を越えてから人員投資に踏み出す順番が、無理のない段階設計です。

自院の外来規模・人員配置で、どのStepから始めるのが現実的かをご一緒に整理したい院長は、番頭代行サービスへのご相談からお声がけください。患者数の見立てと固定費構成の両面から、無理のない参入計画をお手伝いします。

段階的参入のロードマップ

参入で失敗するパターンの多くは、最初から機能強化型在支診の体制を整えて固定費が先行してしまうケースです。患者紹介はケアマネ・地域包括・病院連携室との関係構築が前提で、立ち上げから半年〜1年は読めないのが実態。次の4段階で組み立てるのをおすすめします。

Step 1:在支診なし(区分3)で小さく開始

既存外来で通院困難になった患者から訪問診療へ切り替える。院長が週1〜2日の午後を充て、患者5〜10名規模で動かす。24時間対応はまだ整えず、計画的訪問のみで運用する。
次への移行目安:患者数が10名前後で安定し、夜間連絡が継続発生し始めた頃。

Step 2:24時間体制を整え、従来型在支診の届出(区分2へ)

オンコール体制(自院+緊急時連絡先)を構築し、在支診を届け出て在医総管区分を2に上げる。患者20〜30名規模まで広げる。
次への移行目安:患者数30名前後で運用が安定し、専任スタッフを置く判断ができる時期。

Step 3:患者月40〜60名で安定運用、ケアマネネットワーク構築

専任スタッフ(看護師・医療事務)を配置し、ケアマネ・地域包括からの紹介ルートを確立する。看取り実績を積み上げ、地域認知を獲得する。
次への移行目安:自院で月4回以上の往診を継続でき、連携医療機関との合意形成が見えてきた段階。

Step 4:連携型機能強化型在支診「ア」要件で届出(最短2〜3年後)

自院で月4回以上の往診体制を整え、連携医療機関と機能強化型体制を構築する。上位区分の在医総管・往診加算で収益性を一段引き上げる。

最短でもStep 1〜4で2〜3年。Step 1〜2の1年で患者と地域連携を耕し、Step 3で体制投資、Step 4で届出——この時間軸が無理のない経営計画の骨格です。

よくある質問

在医総管とは何ですか?

在宅時医学総合管理料の略で、在宅で療養する患者の総合的な医学管理に対して月1回算定する点数です。区分3・月2回・居宅で2,735点(令和6年版)が出発点で、訪問診療料と合わせて在宅部分のみで患者1人月約4.5万円、外来加算等を含めると月5〜6万円台が目安となります。

24時間対応はどう整えればよいですか?

院長単独で24時間オンコールを背負うのは現実的ではなく、自院の電話を一次窓口にし、夜間の医師対応は近隣診療所との連携や代行サービスを組み合わせるのが一般的です。2026年改定では「丸投げ型」代行委託が制限されるため、事前面談・診療方針の共有を含めた連携設計が必要になります。

患者はどう集めればよいですか?

開業初期は、既存外来で通院困難になった患者の訪問移行が最も自然な入口です。次のステージではケアマネジャー・地域包括支援センター・近隣病院連携室との関係構築が中心となるため、Step 1のうちから連携先候補をリストアップしておくことが効きます。なお在宅医療の訴求は表現規制の対象になるため、医療広告ガイドライン2026年改正の要点も合わせて確認しておくと安全です。

2026年改定で参入は不利になりますか?

立ち上げ期は重症患者割合20%要件の適用外(本文の論点参照)で、スモールスタート自体は引き続き可能です。ただし24時間体制・BCP策定・代行委託の適正化など体制面の準備が以前より重く、意思決定は早めに進めるほど準備時間を確保できます。

まとめ:「数字」より先に「体制ロードマップ」を描く

在宅医療への参入は、収益機会と24時間体制・重症対応・BCPなどの体制要件が表裏一体です。2026年6月1日施行予定の改定は、量の拡大ではなく質と継続可能性を制度として求める方向にあります。点数表で月収を試算するより先に、自院がどのStepから始めて、どの時間軸で機能強化型まで到達するかのロードマップを描くことが、参入判断の出発点です。

院長が今週できる一歩としておすすめなのは、外来カルテから「通院困難になりつつある患者」を5〜10名洗い出し、訪問診療に切り替えた場合の同意可否を頭の中でシミュレーションしてみることです。Step 1の出発点が自院の中にどれくらいあるかが見えると、参入の議論は一気に具体的になります。

未来共創機構の番頭代行サービスでは、この「自院のStep 1の見立て」から、24時間体制の組み方・在支診の届出スケジュール・収益見通しの組み立てまで、院長の隣で一緒に考える伴走をしています。コンサルタントや税理士が制度解説や数字の整理にとどまるのに対し、番頭代行は現場の運用設計・体制づくりまで踏み込んで伴走できる点が強みです。診療報酬改定の解釈と自院条件の擦り合わせ、固定費を先行させない参入計画づくり、地域連携先のリストアップなど、相談の入口は何でも構いません。

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参考資料