在宅医療への参入を考えるクリニック院長が増えています。在宅患者訪問診療料の算定患者数は約100万人を突破し(日経BP Medical、2024年)、市場は確実に拡大しているからです。ただ在支診(在宅療養支援診療所)の届出を入り口にいざ調べ始めると、在医総管・機能強化型・別表第8の2といった専門用語と点数の海に飲まれ、「自院は何から決めればいいか」が見えなくなる。これが最初の壁です。地域の高齢化、外来患者の通院困難化、政策的な後押しと、検討理由は十分にそろっています。
この記事は「参入すべきか」を論じるものではなく、参入するならどう設計するかという最初の経営判断の軸を整理することを目的とします。点数の網羅解説ではなく、最初の意思決定で押さえるべき論点に絞ります。
この記事でわかること
- 在宅医療の参入形態は大きく3つ(届け出ない/従来型在支診/機能強化型)あり、何を基準に選ぶか
- 話題の「重症患者割合20%要件」が、具体的に何の基準なのか
- 2026年度に新規参入する院にとって追い風になる経過措置の活かし方
訪問診療と往診の違いや在医総管の基本的な仕組みは、別記事「訪問診療への参入を検討するクリニック院長へ — 在宅医療の基本と2026年診療報酬改定の要点」で解説しています。基礎から押さえたい方は先にそちらをどうぞ。
最初に決めるべきは「点数」ではなく「参入の形」
最初に決めるべきは個別点数ではなく、どの体制で在宅医療を始めるかという大枠の設計です。点数は告示で変わり、自院の患者構成でも算定区分が変わります。先に点数表を読み込んでも、自院の数字は絞り込めません。「24時間体制を引き受けるか」「何名規模を見込むか」を先に決めるほうが、届出も収支試算も一気に具体化します。
参入形態は、大きく次の3つです。
- 選択肢A:在宅療養支援診療所(在支診)を届け出ずに訪問診療を始める
- 選択肢B:従来型の在支診を届け出て始める
- 選択肢C:機能強化型在支診を目指す
在支診とは、24時間の連絡・往診体制などを満たして地方厚生局に届け出た診療所です。届け出ると在医総管(在宅時医学総合管理料:月単位の主収益源)の点数が大きく上がる一方、24時間体制という重い責任を引き受けることになります。この3択のどこに自院を置くか、それが最初の分岐点です。
在支診の有無で在宅収益は大きく変わる
在支診の届出があるかないかで、在医総管の点数はおおむね2倍近く変わるとされています。これが「最初に参入の形を決めるべき」と申し上げる最大の理由です。
令和6年(2024年)度の告示では、月2回以上訪問・院外処方・単一建物1人といった同条件でも在支診の有無で在医総管が約2倍違う構造でした(富士在宅診療所の解説、2024年度時点)。機能強化型ならその差はさらに開きます。
ただし2026年度(令和8年度)改定は2026年6月1日に施行されたばかりで、点数表を裏取りできる一次情報がまだ十分に出そろっていません。本記事では個別点数を断定しません。「届け出るかどうか」が収益モデルを左右する経営判断であることは構造的事実として動かない、と押さえてください。実際の点数は届出前に2026年度の点数表または地方厚生局でご確認ください。なお在宅は届出・算定の要件が細かく、届け出たつもりが算定漏れになりやすい領域です。届出と算定の実務チェックは「2026年改定で増える算定漏れ・届出ミスを防ぐクリニックの実務ガイド」も参考にしてください。
3つの参入形態、自院にはどれが向いていますか?
患者紹介の見込み・人員体制・院長自身が24時間対応をどこまで担えるかで決まります。
選択肢A:在支診を届け出ずに小さく始めるのはどんな場合?
「まず数名から様子を見たい」「24時間体制を即座には組めない」院に向きます。24時間連絡体制・緊急往診体制・連携病院の確保といった重い施設基準が不要で、院長の負担をコントロールしやすいのが利点です。
一方で在医総管の点数は在支診ありと比べて大きく下がります(前述の約2倍差)。月数名のスモールスタートで手応えを確かめ、見込みが立ってから在支診の届出に進む、という段階設計の最初の一歩として位置づけるのが現実的でしょう。
選択肢B:従来型在支診から始めるのはどんな場合?
患者紹介の目処が立ち、10〜20名規模を見込める院に向きます。従来型在支診には機能強化型のような過去実績要件がなく(富士在宅診療所の解説、2024年度時点)、開業間もないクリニックでも上記の施設基準さえ満たせば届出可能です。在支診ありの点数を使え、選択肢Aから一段収益性が上がります。
注意点は、24時間対応の負担が院長一人に集中しやすいことです。夜間・休日対応をすべて院長が抱える設計は長続きしません。後述の連携型活用や非常勤医確保をあわせて考える必要があります。
選択肢C:機能強化型を最初から目指すのはどんな場合?
他院と連携が組める、あるいは既に在宅実績がある院に向きます。新規開業の単独院が最初から狙うのはハードルが高いのが実情です。実績要件として2024年度時点では常勤医師3名以上、過去1年間の緊急往診10件以上、看取り4件以上が目安とされていました(富士在宅診療所の解説、2024年度時点)。新規参入直後に満たすのは難しいケースが多いでしょう。
機能強化型には自院単独の「単独型」と複数医療機関で体制を確保する「連携型」があります。2026年度改定では連携型がさらに細分化され、自院で一次対応の体制を確保しているかが評価されるようになりました(メディヴァ、2026年)。複数院での参入では、この連携型の設計が選択肢になります。
「重症患者割合20%要件」は在医総管の月2回訪問区分にかかる
先に要点だけ整理します。この要件は(1)在医総管の「月2回以上訪問」区分の算定に関わるもので、在宅医療すべてや別区分にまで一律にかかる閾値ではありません。(2)別表第8の2(医療的処置が必要な患者)または別表第8の3(要介護3以上などの患者)に該当する「重症患者」が、あわせて2割以上いることを求めます。(3)2026年度改定で在医総管などに導入される方向で、軽症者中心の月2回訪問は算定しにくくなる流れです(メディヴァ、GemMed、2026年)。
「重症患者」とは具体的にどんな患者ですか?
「別表第8の2」または「別表第8の3」に定められた状態の患者を指します。別表第8の2は医療的な処置・状態で線引きされ、たとえば末期の悪性腫瘍・指定難病、真皮を越える褥瘡、在宅酸素・在宅人工呼吸・中心静脈栄養、気管切開・人工肛門などの患者が該当します(e-診療報酬点数表、2026年版)。一方の別表第8の3は「包括的支援加算」の対象患者区分で、要介護3以上(または障害支援区分2以上)や認知症高齢者の日常生活自立度ランクⅢ以上などが含まれます(2024年度改定で要介護2→3以上・認知症Ⅱb→Ⅲ以上に引き上げ)。
ここで注意したいのは、医療的処置が必要な患者(別表第8の2)だけでなく、要介護3以上や重度認知症などの患者(別表第8の3)も20%要件に算入できる点です。「医療依存度が高い患者しかカウントできない」と誤解すると、自院の該当患者を過小に見積もってしまいます。ただし別表第8の3は要介護度だけでなく認知症の状態や医療処置の有無でも判定されるため、自院の患者がどの要件で該当するかは個別の確認が要ります。
認知症患者を診ていれば20%要件は緩和されますか?
条件付きで「2割以上」から「1割5分以上」に緩和される特例がありますが、無条件ではありません。2026年度疑義解釈では、認知症高齢者の日常生活自立度IV・Mに該当する患者に適切なケアを行う場合に緩和されますが、重度認知症患者の延べ診療月数の割合などについて別途定められた条件を同時に満たす必要があります(GemMed、2026年)。「認知症を診ていれば自動的に15%でよい」ではないという点だけは押さえてください。
なお20%要件の算定単位(実人数ベースか延べ診療月数ベースか)は、加算と在医総管本体で異なる可能性があり、一次情報での裏取りが十分とは言えません。届出前に2026年度の施設基準通知・疑義解釈でご確認ください。
2026年度に新規参入する院に「追い風」になる経過措置はありますか?
あります。2026年度に新設される「在宅医療充実体制加算」について、令和8年度中に初めて届け出る場合は実績を直近3か月以上で判定できる経過措置が設けられています(ナレティ、GemMed、2026年)。新規参入院にとって実務上のメリットになり得ます。
在宅医療充実体制加算は、機能強化型在支診が届け出る最上位クラスの加算で、従来の「在宅緩和ケア充実診療所・病院加算」を発展させて新設されました。機能強化型に加え、緊急往診・看取りの一定の実績要件などが課されます。通常はこれらを「過去1年間」で判定するため新規院は届け出にくいのですが、経過措置により令和8年度中(2026年4月〜2027年3月)の初回届出は直近3か月以上の実績で判定でき、参入から早い段階で上位の加算を狙える可能性が出てきます。
ただし留保が二つあります。一つは、緊急往診・看取りの件数要件が「それぞれ一定以上」か「合計で一定以上」か情報源で記述に差があり一次情報で断定できないため、本記事では件数を断定せず「一定の実績要件」とだけ表現する点です。もう一つは、この経過措置が2026年度中の初回届出に限った特例で、2027年度以降の継続算定には原則1年間の実績が必要になる点です。実際の件数や判定方法は届出前に地方厚生局または専門家にご確認ください。
参入を決めたら、実務でつまずきやすいのはどこですか?
最大の難関は「連携病院の確保」です。そのほか届出タイミングのズレ、24時間対応の負担、患者属性の記録体制がつまずきやすいポイントで、早めに押さえておくと安全です。
- 連携病院の確保:在支診の施設基準は、緊急時の入院受入医療機関を書面で確保する必要があります。都市部では病床に余裕がなく交渉が難航することもあり、最も早く着手すべき項目です。
- 届出先と締切のズレ:届出先は地方厚生局で、保険医療機関の指定と施設基準の届出は別プロセス・締切日も異なります。月をまたぐと初月から算定できず収益に直接響きます。
- 24時間対応の実態:連携型でも実態が「月1回のカンファレンスだけ」では要件を満たしません。2026年度改定では夜間・休日往診の外部委託時の事前説明や情報連携要件も強化され、名目だけの体制は評価が下がる方向です(佐々木総研、2026年)。
- 重症患者割合の記録体制:20%要件の証明には、別表第8の2該当患者を電子カルテで日頃から管理する必要があります。後から遡るのは困難なので、最初から記録の仕組みを用意しましょう。
冒頭で触れたとおり需要は拡大基調にあり(在宅サービスを実施する一般診療所は2023年時点で約3.3万施設、令和5年医療施設調査)、裏付けがあるからこそ設計を誤らずに参入する価値があります。
最初の判断を一人で抱え込まないために
在宅医療への参入は「点数が高いから始める」という単純な話ではなく、どの形で届け出るか・重症患者割合の要件をどう満たすか・24時間体制を誰が支えるか・連携病院をどう確保するかが絡み合った経営判断です。2026年度改定は施行直後で要件の細部にまだ一次情報確認を要する論点が残っているため、伝聞や解説記事の数字を鵜呑みにせず自院に当てはめて裏取りする姿勢が特に大切です。
最初の一歩は、「自院はA・B・Cのどの形で始めるのが現実的か」を、患者紹介の見込み・人員・院長自身の関与度から仮置きしてみることです。そこが決まれば届出の段取りも収支試算も一気に具体化します。判断に迷う段階こそ、外の視点を一つ入れておくと後戻りの少ない設計ができます。
在宅参入の設計、どこから整理すればよいか迷っていませんか?
在宅医療への参入は、点数表だけでは決められません。どの形で届け出るか、重症患者割合の要件をどう満たすか、収支はどう組むか。番頭代行では、届出の段取りから体制設計、収益シミュレーションまで、院長の隣で一緒に整理するご相談を無料でお受けしています。判断に迷う段階でこそ、外の視点をご活用ください。
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参考資料
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定説明資料等について」
- メディヴァ「令和8年度(2026年度)診療報酬改定③|在宅医療・訪問看護の「質と効率性」が問われる時代へ」
- 佐々木総研グループ「令和8年度診療報酬改定~在宅医療の主な変更点」
- GemMed「2026年度診療報酬改定でも適切な形の在宅医療が量・質の双方で拡大することを目指した対応図る」
- GemMed「在宅医療充実体制加算、重度認知症患者対応を行う場合は重症患者割合要件を緩和」
- GemMed「2026年度診療報酬改定の関連通知等を訂正」
- ナレティ「在宅療養支援診療所の施設基準 – 令和8年度診療報酬改定」
- 富士在宅診療所「機能強化型在宅療養支援診療所とは?施設基準による訪問診療費の違い」
- ドクターズチャート「新設項目の「在宅医療充実体制加算」とは?(令和8年度診療報酬改定)」
- e-診療報酬点数表「別表第八の二」
- 在宅医療コンソーシアム「外来クリニックのための在宅医療スタートアップ講座 第3回」
- 令和5年(2023年)医療施設調査
- 日経BP Medical「在宅患者が100万人を突破、診療報酬も月1000億円に」



