クリニックのコスト削減 実務ガイド|事務長が院長に提案できる優先順位と相場感

クリニック事務長が院長にコスト削減を提案するビジネス会議の様子
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クリニックのコスト削減は「費用構成の把握」から始める

結論を先にお伝えすると、クリニックのコスト削減で最初にやるべきことは「自院の費用構成を相場と比較すること」です。 相場から外れている費目を特定し、削減インパクトの大きい順に着手する。これが遠回りに見えて最も確実な進め方です。

「利益率が下がっている。何とかしてほしい」――院長からそう言われて、何から手をつけるか迷った経験はないでしょうか。その焦りは、あなただけのものではありません。

日本医師会の「令和7年 診療所の緊急経営調査」(2025年9月公表)によると、医療法人立の診療所で本業(医業)が赤字となった割合は45.2%に達しました。前年度の31.3%から約1.4倍(約14ポイント増加)し、医業利益率も平均6.7%から3.2%へ半減しています(日本医師会, 2025)。

背景にあるのは物価高騰と人件費上昇です。同調査では76.0%の診療所が経営課題に挙げています。2026年度診療報酬改定の医科診療所への物価対応配分は+0.10%にとどまり、改定だけで経営を立て直すのは困難です。

「収入増を待つ」のではなく「支出を見直す」ことが現実的な打ち手です。クリニック経営における社外CFOの役割の一つも、この「支出の構造を見直す」作業にあります。この記事では、事務長が院長に提案できる根拠と、着手の優先順位を費目別にお伝えします。

クリニックの費用構成を「相場」と比べる

コスト削減の第一歩は、自院の決算書を開いて費目ごとの比率を相場と突き合わせることです。第24回医療経済実態調査(厚生労働省, 2023年実施)のデータを基に、診療所の主な費目比率を確認しましょう。

個人立診療所の人件費比率は医業収益の約24.6%、医療法人立では約49.0%と大きく異なります。個人立では院長報酬が人件費に含まれないため低く見えますが、実質的な負担は変わりません。

主要費目の目安は以下のとおりです。

  • 人件費(給与費): 医業収益の40〜50%(医療法人の場合)
  • 医薬品・材料費: 10〜20%(診療科により変動)
  • 委託費・外注費: 5〜10%
  • 設備関連費(リース料・減価償却): 5〜8%
  • その他(光熱費・通信費・消耗品等): 5〜10%

相場から大きく外れている費目こそ、最初に手をつけるべきポイントです。

即効性のあるコスト削減施策トップ3

1. レセプト算定漏れの防止で「取りこぼし」をなくす

コスト「削減」ではなく収入の「回収」ですが、利益改善へのインパクトが最も大きい施策です。算定漏れ(本来請求できる診療行為を請求し損ねること)は、規模によっては年間数十万円から数百万円の損失になるケースがあります。

事務長の実務アクション:

  • 直近3か月のレセプトを抽出し、算定可能な加算(特定疾患療養管理料、外来管理加算など)の取得率を確認する
  • 電子カルテのマスタ設定が最新の診療報酬改定に対応しているか確認する
  • 医事スタッフと月1回の算定レビュー会議を設ける

着手難易度は低く、外部コストもほぼかかりません。1〜3か月で効果が見え始めます。

2. 医薬品・材料費の業者交渉と在庫最適化

医薬品・材料費は診療科によっては医業収益の15〜20%を占めます。開業時の取引条件をそのまま継続しているクリニックは少なくありません。

事務長がまず着手するのは、現在の仕入れ先と単価表の一覧化です。一覧ができたら、主要品目について最低3社の卸業者から相見積もりを取ります。見積もりを並べると「この品目は他社の方が2割安い」といった差が見えてくるので、既存業者への交渉材料になります。同時に在庫の回転率も確認してください。使用期限が近い廃棄品が毎月出ているなら、発注ロットの見直しだけで数万円単位の改善が見込めます。ジェネリック医薬品への切り替え余地があれば、院長に「この品目は後発品でも同等の効果が得られます」と具体的な品目名を添えて相談すると話が進みやすくなります。

3. 電力会社の切り替え・エネルギーコストの見直し

クリニックの電気代は空調・医療機器の稼働により、一般オフィスよりも高額になりがちです。電力自由化以降、新電力への切り替えで年間の電気代を5〜10%程度削減できるケースが報告されています。

着手のハードルが低い点がこの施策の強みです。まず直近12か月の電気使用量と料金を一覧にし、電力比較サイトで複数社のシミュレーションを取得してください。同時に、契約容量(kVA)が実態に合っているかも確認しておくと、切り替えなしでも基本料金を下げられる場合があります。Webでの見積もり取得だけなら費用もかからないため、院長の承認を得やすい施策です。

委託費の見直しで年間数十万円の削減も

「委託費って、結局どこから手をつければいいんですか?」――事務長からよく聞かれる質問です。清掃、医療廃棄物処理、IT保守、リネン。一つひとつは月数万円でも、積み上げると年間で相当な額になります。大阪府泉南市の医療法人やまびこ会・もはらクリニックでは、委託費・保守費を見直して年間約94.5万円(委託費86万円+保守費8.5万円)を削減しています(日経メディカル, 2024年11月)。

答えは「まず全契約を1枚のシートに並べること」です。契約名・月額・契約期限・自動更新の有無を書き出すだけで、「この契約、5年前から一度も見直していない」という発見が出てきます。更新時期の3か月前に相見積もりを取るスケジュールさえ組んでおけば、毎年の更新タイミングが交渉の機会に変わります。

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IT・デジタル化で「作業を減らす」経費削減

即効性のある施策で止血した後は、中期的に人件費の構造改善に取り組みます。人件費は最大の費目ですが、安易な人員削減は医療安全とサービス品質に直結します。「人を減らす」のではなく「作業を減らす」アプローチが基本です。

RPA導入でどれだけ業務時間を削減できるか

医療法人社団平郁会(東京・神奈川・千葉で17拠点を展開)では、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション:定型業務を自動処理するソフトウェア)の導入により、電子カルテ関連の入力・登録作業を中心に月間150時間以上の作業削減を実現しました(RoboTANGO導入事例)。

福岡県の浅川学園台在宅クリニックでは、休診日に院長が担当していた在宅療養計画書・訪問看護指示書の作成にRPAを導入し、毎月10時間弱(最大75%)の業務削減を実現しています(RPA technologies, 2023年)。

平郁会の事例は17拠点規模の医療法人ですが、浅川学園台のケースのように、1拠点のクリニックでも「院長の時間を奪っている定型書類作業」から着手すれば十分に効果が出ます。RPAに限らず、まずは「毎月繰り返している定型作業」をリストアップし、自動化や外部委託の対象を特定することから始めてみてください。

削減してはいけないコストの線引き

コスト削減に取り組むとき、最初にやるべきは「ここは触らない」という線引きです。感染対策費を削ったクリニックの話を複数聞いています。手袋のグレードを落としたら患者から「薄くなった」と指摘が入り、待合室の清掃頻度を減らしたらGoogleクチコミに「清潔感がない」と書かれた。年間数万円の節約で月間数十人の新規患者を失っては、削減ではなく損失です。

感染対策用品・滅菌設備の保守・スタッフの安全研修。予約システムや患者対応の人員配置。医療廃棄物処理や施設基準の維持に関わる費用。これらは「削減候補に載せてはいけない費目」です。

事務長としてお勧めしたいのは、院長への提案書に必ず「除外リスト」を添付することです。「この費用は削減対象に含めていません」と先に見せることで、院長は安心して残りの提案を検討できます。削減の提案書に「守る費目」を明示する。この一手間が、提案への信頼度を大きく左右します。クリニック経営の見落としやすい課題を事前に把握しておくと、除外リストの精度がさらに高まります。

事務長が院長を動かす提案の通し方

削減対象と「削らない費目」が整理できたら、次は院長の承認です。どれだけ合理的な施策でも、院長が首を縦に振らなければ進みません。

院長は数字に強い方が多い一方で、「感覚的に嫌だ」という直感で判断を保留することもあります。だからこそ、「電気代が高い気がします」ではなく「直近12か月の月平均は○万円で、同規模クリニックの相場より○%高い」と数字で示すことが出発点です。院長が数字を見て「確かにそうだな」と思った瞬間に、提案の8割は通ったようなものです。

もう一つ、院長がよく口にするのは「切り替えて品質が落ちたらどうする?」という懸念です。この問いが出る前に、「品質は変わりません」「解約違約金はありません」「もし問題があれば戻せます」と回答を用意しておく。先回りの安心材料があるかないかで、院長の反応はまるで変わります。

最初から大きな提案を持っていくと身構えられるので、「まず電力の1契約だけ試してみませんか」と小さく始めるのも有効です。実績が出れば次の提案が通りやすくなります。提案書には必ず「3か月以内に年間○万円の削減効果が見込めます」と期限と金額を書いてください。ゴールが見える提案は、院長にとっても判断しやすくなります。

事務長のためのコスト削減チェックリスト

この記事で紹介した施策を、優先度の高い順にまとめました。

優先施策削減規模難易度時間軸
1レセプト算定漏れ防止即効(1〜3か月)
2医薬品・材料費の業者交渉即効(1〜3か月)
3電力会社の切り替え即効(1〜2か月)
4委託契約の相見積もり中〜大短期(2〜4か月)
5RPA等による業務自動化中期(3〜6か月)

地道な積み重ねですが、チェックリストの上位3つに着手するだけでも、年間で数十万円から百万円単位の改善が見えてきます。

「全部を一人で抱え込む必要はない」――これも大切な視点です。費目の分析、業者交渉の段取り、院長への提案資料づくり。「どこから手をつけるか、一緒に整理したい」と感じたら、番頭代行の無料コスト診断をご活用ください。

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よくある質問

クリニックのコスト削減で何から始めればいい?

まず自院の決算書を開き、費目ごとの比率を相場と比較してください。医療法人立クリニックの場合、人件費40〜50%、医薬品・材料費10〜20%、委託費5〜10%が目安です。相場から大きく外れている費目が、最初に着手すべきポイントになります。

事務長一人でできる経費削減施策はある?

電力の切り替えシミュレーション取得、委託契約の一覧表作成、レセプト算定漏れの確認は、事務長の権限内で着手できます。業者交渉やジェネリック切り替えは院長判断が必要なため、データに基づく提案資料を準備した上で承認を得る流れが効果的です。

人件費を削減するとスタッフのモチベーションが下がりませんか?

人件費の構造改善は「人を減らす」ことではなく「作業を減らす」ことがポイントです。RPAや業務フロー見直しで定型作業を削減すれば、スタッフは患者対応など付加価値の高い業務に集中でき、結果的にやりがいの向上につながります。

コスト削減と医療の質を両立できますか?

「削ってはいけないコスト」の線引きを先に行うことで両立できます。医療安全・患者満足度・法令遵守に関わる費用を除外リストとして明示し、それ以外の費目で削減余地を探る進め方が基本です。

参考資料