一人で5役をこなせるのは超人だからではない——AIに『部門』を持たせ、会社のように自律運営させている実録

一人で5役をこなせるのは超人だからではない——AIに『部門』を持たせ、会社のように自律運営させている実録(イメージ)
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この記事でわかること

  • 一人で社外CFO・COO・CHRO・CMOと事務長の5役を回せる理由が「才能」ではなく「仕組み」である、その中身
  • AIに4つの「部門」を持たせ、会社のように自律運営させるとはどういうことか
  • 暴走や情報漏えいを防ぐための、任せ方の3段階・作る側とチェックする側の分離・セキュリティの考え方
  • この仕組みが、普通の中小企業にも再現できるものなのかどうか

なぜ一人で社外CFO・COO・CHRO・CMOと事務長の5役を回せるのか?

結論から申し上げると、超人だからではありません。AIに「部門」を持たせ、会社のように自律運営させているからです。裏を返せば「特別な才能がなくても、仕組みさえ設計すれば組織は回せる」という再現可能性の話でもあります。

筆者は今、複数のクライアント企業・クリニックに対して、社外のCFO(財務責任者)・COO(業務責任者)・CHRO(人事責任者)・CMO(マーケ責任者)に加えて事務長まで、一人で5役を担っています。人間の手だけでこれをやろうとすれば、まず破綻します。

そもそも、人手が足りないのは筆者だけの問題ではありません。帝国データバンクの調査(2025年1月)では、正社員が「不足している」と感じている企業は53.4%にのぼり、コロナ禍以降で最も高い水準でした。人手不足を直接の引き金とする倒産は2025年に427件発生し、3年連続で過去最多を更新しています(帝国データバンク, 2025年)。さらに2025年版の中小企業白書(中小企業庁, 2025年)は、成長を加速させる段階では「経営者の職務権限を分散させ、一人経営体制から脱却すること」が重要だと指摘しています。

つまり、「一人で抱えきれない」「あの人に聞かないと何も進まない」という属人化の悩みは、多くの中小企業に共通する構造的な課題です。筆者がやっているのは、それを人ではなくAIに役割を分担させて乗り越える試みです。以下、その中身を順番にお見せします。


AIに「4つの部門」を持たせるとはどういうことか?

AIを、単発で質問に答えてくれるチャット相手としてではなく、会社のように「部門」を持たせて運営している、ということです。この一連のやり方は、AIを繰り返し動かし、人とAIで役割を分担して仕事を回す「ループエンジニアリング」(AIを反復稼働させ、人とAIの分担で業務を設計する考え方)を、エンジニアではない経営の現場に持ち込んだものです。今、主に動かしているのは、次の4つのチームです。

  • 経営企画チーム:全体の舵取り役。会議の司会を務め、計画と実績のズレをチェックする
  • マーケティングチーム:集客やコンテンツづくりを担う
  • 営業チーム:商談化・受注の最前線を担う
  • サービス開発チーム:社内で使うツールや仕組みづくりを担う

ポイントは、この4チームが全員、「会社が最優先で追う、たった一つの目標数値」を共有していることです。たとえば「新規クライアントの受注社数」のような、ぶれない一本の指標を全部門の旗印に据えます。そして毎週、その数値に照らして「今週はどこに力を入れるか」を決めます。

ここが、よくある「AIに作業を手伝ってもらう」段階との決定的な違いです。多くの会社では、AIは資料の下書きや要約といった点の作業に使われています。総務省の令和7年版情報通信白書(2025年公表)によれば、企業の生成AI活用割合は49.7%(2024年度)まで広がりました。しかし、その大半は「個人が思いついたときに使う」段階にとどまります。

筆者がやっているのは、その一段先です。AIに役割と目標を持たせ、チームとして連動させる。すると、ばらばらだった点の作業が、一つの目標に向かう線の活動に変わります。世界的にも、複数の作業を自律的にこなす「エージェント型AI(指示を受けて自分で段取りして動くAI)」への移行が始まっており、調査会社ガートナーは、企業向けアプリにこの種のAIが組み込まれる割合が2025年末の5%未満から2026年末には40%に達すると予測しています(Gartner, 2025年)。

なお、AIを使い始めても「導入したのに何も変わらない」で止まる会社は少なくありません。その構造は中小企業のAI活用が進まない理由と「使いこなす」ための設計ステップで別途整理しています。


全部AIに任せて事故は起きないのか?──仕事の任せ方を3段階に分ける

結論として、何でもAIに丸投げはしていません。仕事を性質で3つに分け、任せ方を変えることで、事故が起きにくい構造をつくっています。リスクの大きさに応じて手綱の長さを変えるイメージです。

第1段階:社内の軽い・後戻りできる仕事はどこまで任せるか

社内の記録更新や下書きの作成など、間違えてもすぐにやり直せる仕事です。これはAIの経営企画チームが自分で判断して実行します。いちいち人間が確認していては、かえって時間を食うからです。

第2段階:社内だが判断が要る仕事は誰が決めるか

「今週はどの取り組みを重点にするか」「設計の方向性をどちらにするか」といった、社内向けではあるけれど判断を伴う仕事です。ここでは、計画を立てたAIとは別のAIに、採否(やるか・どの方向で進めるか)だけを判断させます。作った本人が自分で「これでよし」と決めると、どうしても評価が甘くなる。だから判断役を意図的に分けています。

第3段階:外向き・後戻りできない仕事は誰が止めるか

メールやお手紙の送信、記事の公開、お金が動く操作、対外的なご連絡。これらは必ず人間(筆者)が最終承認します。AIは下書きや準備までで止まり、最後の「送信」「公開」のボタンは、必ず人間が押します。外に出てしまったものは取り消せないからです。

この3段階を貫くのは、「判断に迷ったら、人間の承認が要る側に倒す」という安全側の原則です。リスクの大きい操作ほど人間の承認を厚くする——世界のAIガバナンス(AIを安全に統治するルール)でも、この「段階的な承認」が土台になっています。

ちなみに、AI導入が空回りする典型例は、この「任せる範囲の設計」を飛ばして全部任せようとするケースです。失敗パターンはAI導入でよくある失敗と、つまずかないための進め方にまとめています。


なぜ「作るAI」と「チェックするAI」を必ず分けるのか?

同じAIに作らせて、同じAIに採点させない。これを徹底しているからです。人間の組織で「実行する人」と「承認する人」と「確認する人」を分けるのと、まったく同じ発想です。

たとえばブログ記事を一本つくるときも、「書くAI」「事実が正しいかを確認するAI」「品質を採点するAI」を別々に立てます。書いた本人に「間違いはない?」と聞いても、自分の仕事を否定したくない心理が働き、自己採点は甘くなりがちです。これはAIでも同じです。

これは経営の世界では「職務分掌」や「内部統制」と呼ばれる基本原則です。一人の担当者が申請から承認、実行、記録の確認までを一気通貫でできる状態は、意図せぬミスも意図的な不正も起こりやすい。だから「記録する人」と「承認する人」を分けます。中小企業でも、支出の記録と承認を担当者と経営者で分けるだけで、この相互けん制は働きます。

「AIは間違える」という前提に立つからこそ、その間違いを別のAIと最後の人間で二重三重に受け止めるのです。


AIだけで会議が回るのか?──ある日の社内会議をのぞいてみる

回ります。しかもこの会議は、筆者が招集しなくても毎朝、定刻になると自動的に立ち上がります。人が会議を開くのではなく、会議のほうが自動で始まる。これがAI自律運営の、いちばん分かりやすい証拠かもしれません。司会を務めるのは経営企画部のAI企画部長。出席者はマーケ部長・営業部長・開発部長で、いずれもAIです。少し様子をのぞいてみましょう。

企画部長:昨日までの重点は「ある販促施策の準備」と「営業の初回商談を増やすこと」でした。マーケ部長、進み具合はいかがですか。

マーケ部長:販促施策の下準備は完了しています。配信する内容の案も用意できました。

企画部長:「完了」とのことですが、その成果物は実際に手元にありますか。出来上がったものを確認させてください。

マーケ部長:はい、こちらに。ただ、最終版として整えるには、もう一段の見直しが要ります。

企画部長:では、それは「完了」ではなく「まだ途中」と記録します。営業部長はいかがですか。

営業部長:昨日着手した取り組みのうち、商談につながった件が想定よりやや少なめでした。原因は接触のタイミングだと見ています。

企画部長:言ったこと(計画)とやったこと(実績)のズレを突き合わせると、販促の準備は前進、商談化は遅れ、という整理になります。今日は、会社が最優先で追う目標である受注社数に直結する「商談化の改善」を重点に絞りましょう。販促施策のうち、対外的なご案内を送る工程は、外に出る実行なので、ここでは行いません。人間の承認待ちとして整理し、上に上げます。

短いやり取りですが、ここには筆者が大事にしている規律が二つ詰まっています。

一つは、報告を鵜呑みにしないこと。司会役のAIは「完了しました」という言葉をそのまま受け取らず、「成果物は本当に存在するか」まで確認してから「終わった/まだ」を確定します。人間の会議でありがちな「やったつもり」「言ったもの勝ち」を構造的に防いでいます。

もう一つは、外向きの実行を会議で勝手に走らせないこと。対外的なご案内の送付のような後戻りできない行動は、その場で実行せず「人間の承認待ち」として整理し、必ず人間に判断を委ねます。会社の外との接点には、必ず人間の最終判断を残しています。

なお、この会議に出ているのは、今いちばん追っている目標に直接関係する部門だけです。経理や顧客対応のチームも用意していますが、今その目標に効かない部門は、力を一点に集めるために、あえて呼んでいません。


経営者が見ていない時間に、AIは何をしているのか?

夜間や不在の時間にも、AIは情報の収集や下書きづくりといった「社内で完結する下準備」を黙々と進めています。朝、机に向かったときには判断材料がすでに揃っていて、あとは確認して進めるか止めるかを決めるだけ。人を増やせない一人体制でも、限られた時間を「判断」に集中できます。

そして「外に出る一歩」だけは、ここでも別扱いです。夜のうちにメールの下書きが完成していても、人間がボタンを押すまで送られることはありません。


AIに任せて、情報は本当に守られるのか?──セキュリティ体制の概要

「AIに任せる=危ない」という不安は、当然のものです。だからこそ筆者は、便利さより先に安全の設計を固めてきました。攻撃のヒントになる細部は伏せたうえで、考え方の骨子をお伝えします。

機微なデータには、そもそもAIを近づけないのか?

正直に言えば、最初にいちばん怖かったのがこれでした。クライアントの患者情報やカルテのような、特に慎重に扱うべきデータをAIが読めてしまったら——そう考えた時点で、筆者は「気をつけて使う」という運用ルールを捨てました。人は必ずどこかで気を抜くからです。だからこの種のデータには、AIが最初から手の届かない設計にしてあります。注意力ではなく、構造で守る。ここが土台です。

外に出る一歩は、誰がボタンを押すのか?

送信・公開・課金といった、会社の外に影響が及ぶ行動には、例外なく人間の最終承認を挟みます。AIがどれだけ「これで大丈夫です」と言ってきても、最後のボタンは筆者が押します。人間を最終判断の輪の中に残す「ヒューマン・イン・ザ・ループ」(人間が承認の輪に入る)——専門用語はともかく、要は「外に出る一歩だけは人が止める」という一線を、便利さと引き換えにしないと決めているだけです。

残る二つの守り――秘密情報の遮断と、役割の分離

地味ですが、ここが効きます。一つは、パスワードや鍵のような秘密情報を自動で隠し、危険な操作はシステムが機械的に止めること。駅の改札と同じで、危ない操作はそもそも通さない作りにしておきます。もう一つは前の章でも触れた、作るAIとチェックするAIを分けて互いに見張らせることです。

これらは公的な指針とも足並みをそろえています。総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン」は2026年3月に第1.2版へ改訂され、AIを「利用するだけ」の中小企業も対象としています。人間が最終判断を担保するという考え方も、海外のAIリスク管理の枠組みが共通して求めているものです。「仕組みを整えたうえでAIに任せる」。この順番を守ることが、安心してAIを使う前提だと考えています。筆者自身が半年かけてこの体制を作り直してきた記録は非エンジニア経営者がAIセキュリティ対策を半年DIYした記録にまとめています。


この仕組みは、普通の中小企業にも再現できるのか?

できます。むしろ、人を増やせない中小企業ほど効く考え方です。「これは特別な人の特殊技だ」と感じられたかもしれません。けれど中身を分解すると、新しい発想はほとんどありません。

筆者がやっていることは、人間の組織が何百年もかけて磨いてきた知恵を、AIに移し替えただけです。役割を部門に分ける。全員が一つの目標を共有する。任せる仕事と承認が要る仕事を線引きする。作る人とチェックする人を分ける。外向きの行動には責任者の承認を挟む。どれも、よくできた会社が当たり前にやっていることばかりです。違うのは、その担い手の一部がAIだという点だけです。

注意したいのは、これは「AIに任せれば安心」という話ではないことです。世界の調査でも、AIエージェントを実験している企業は6割を超える一方、組織全体へ広げられている企業はごくわずかです(McKinsey, 2025年)。多くの企業がつまずくのは、ツールの性能ではなく、任せ方や承認の仕組み、つまりガバナンスの設計です。ここを丁寧に設計できれば、小さな会社でも一人ぶんを大きく超える働きを引き出せます。

人手不足や属人化に悩む経営者にとって、答えは「人を採る」ことだけではありません。「AIに役割を持たせ、会社のように動かす。ただし危ないところは人間が握る」。この設計図は業種を問わず応用が利きます。大切なのは完璧を目指さず、「どの仕事から任せ、どこに人間の承認を残すか」を一つずつ決めること。その線引きさえ間違えなければ、AIは静かに、しかし確実に、あなたの会社の一部門として働き始めます。

明日から踏める、最初の一歩は何か

いきなり全体を設計する必要はありません。まずは「やり直しの効く社内作業」を一つだけ選び、それだけをAIに任せてみる。次に「外に出す操作(送信・公開・支払い)は、必ず自分が最終承認する」という線を一本だけ先に決める。この二つを決めるだけで、事故を防ぎながらAIに仕事を移す土台ができます。あとは任せる範囲を、様子を見ながら一つずつ広げれば十分です。


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