モンスター社員の対処法|放置の最大コストは「優秀な人が静かに辞めること」

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職場に一人、対応に手を焼く社員がいる。注意すれば「パワハラだ」と返され、放っておけば空気が重くなる。この板挟みで疲れている経営者は少なくありません。

経営者・管理職の75%が「モンスター社員」と呼べる人材に遭遇した経験があると回答しています(ウィンベル合同会社, 2025年)。特別な不運ではなく、組織を持てば多くの人が通る道です。

この記事では「どう辞めさせるか」より一歩手前の話をします。放置の本当のコスト、感情的な対応がなぜ逆効果か、そしていま踏むべき地道な初動を整理します。

この記事でわかること

  • モンスター社員を放置したときに本当に失うものは何か
  • 多くの経営者がやりがちな「感情的な即解雇」がなぜ危険か
  • 辞めさせる前に踏むべき、地道だが効く3つの初動

モンスター社員を放置すると、何が起きる?

最も深刻な損失は、問題社員本人ではなく、周囲の優秀な社員が静かに辞めていくことです。

経営者はつい「あの一人をどうするか」に意識を集中させがちです。しかし実態調査でも、対応の最大の悩みは本人への対処そのものではなく「他の社員への影響(職場全体の士気低下)」でした(ウィンベル合同会社, 2025年)。

しわ寄せを最初に受けるのは、真面目に働く周りの社員です。フォローに追われ、理不尽な言動に耐え、それでも経営者が動かない様子を見て、彼らはこう感じます。「この会社は、頑張る人を守ってくれない」と。優秀な人ほど次の選択肢を持っているため、黙って、しかし確実に去ります。問題社員一人を放置した代償が、本来残ってほしかった社員の離脱として返ってくる。これが放置の最も高いコストです。

中小企業ではこの痛手がさらに重く響きます。社員30〜99名規模では入社3年以内の離職率が約40%にのぼるという調査もあります(World Economic Forum, 2025年)。ただでさえ定着しにくい環境で貴重な戦力を失うのは、経営として避けたい事態です。

退職連鎖そのものをどう防ぐかは、「あの人が辞めたら会社が回らない」を防ぐ人材BCPでも詳しく扱っています。

感情的に「即解雇」するのは正解?

結論から言えば、感情に任せた即時解雇は最もやってはいけない対応の一つです。日本の解雇規制のもとでは、かえって会社が大きなリスクを負います。

労働契約法第16条は「解雇権濫用法理」と呼ばれるルールを定めています。要するに「正当な理由がなく、やり方も相当でない解雇は無効になる」という考え方で、次の2つを両方満たさなければ解雇は無効と判断されます。

  • 客観的に合理的な理由:能力不足や規律違反など、誰が見ても納得できる理由を証拠で示せること
  • 社会通念上の相当性:指導や改善の機会を十分に与えたか、解雇という重い処分が行き過ぎでないか

「目に余るから」「もう我慢の限界だから」という主観だけでは解雇は通りません。指導も記録もないまま辞めさせれば、不当解雇として争われる可能性が高くなります。

代償は小さくありません。労働審判における解決金(解雇案件を含む)は中央値で約150万円、平均では約285万円というデータがあります(厚生労働省、令和4年調査)。弁護士費用や対応に費やす経営者自身の時間を加えれば、小規模な会社には決して軽い負担ではありません。

紛争に発展するケースも増えています。令和6年の労働関係民事訴訟の新受件数は4,214件で、平成4年以降の過去最多を記録しました(最高裁事務総局, 司法統計)。「拙速に辞めさせてこじれる」リスクは、いま確実に高まっています。

では、経営者はまず何をすればいい?

辞めさせ方を考える前に、「記録・面談・就業規則の整備」の3つを固めることが先決です。地味ですが、後のあらゆる選択肢の土台になります。

まず「事実の記録」を残せているか?

問題行動は、起きたその都度、客観的な事実として記録します。記録がなければ、どんなに正当な理由があっても後から証明できません。

書き留めるのは、いつ・どこで・誰が・誰に・何をしたか・どう指導し本人がどう反応したか。コツはできるだけ当日中に書面化することです。後からまとめた記録は証拠価値が低くなります。メールやチャットでの注意はそれ自体が記録として残るので有効です。

この記録は訴訟のためというより、感情論を排して事実だけで冷静に判断するための土台でもあります。

「面談」で改善の機会を与えているか?

問題行動を見つけたら、感情的にならず事実をもとに具体的に指導します。社員のためであると同時に、会社を守るための手順でもあります。

先ほどの「社会通念上の相当性」を思い出してください。改善の機会を十分に与えたかは後で必ず問われます。口頭で変わらなければ書面警告へ、それでも改善がなければ次の段階へ、と順を追った事実そのものが会社の正当性を支えます。面談では「何が問題か」「いつまでにどう改善してほしいか」を明確に伝え、内容も記録に残します。

「就業規則」というルールはあるか?

判断のよりどころとなる就業規則を整えておくことが、すべての対応の前提になります。

ルールがないまま「ダメだ」と注意しても、社員からは「何を根拠に」と見えます。就業規則には服務規律と、どんな行為がどんな処分につながるか(懲戒事由)を明記する必要があります。

注意点が一つ。就業規則は作っただけでは効力を持ちません。労働基準法は、全社員がいつでも見られる状態にしておくこと(周知)を効力の条件としています。ハラスメント禁止やSNS利用のルールも、いまは明記しておきたい項目です。

ハラスメント関連の規定整備は、ハラスメント規定を就業規則に一本化する実務で具体的な手順を解説しています。

「退職してもらう」のは、本当に最後でいい?

辞めてもらう方法には段階があり、いきなり解雇に飛ぶ必要はありません。解雇よりハードルが低い選択肢があることは、見落とされがちなポイントです。

代表が「退職勧奨」です。会社が社員に「退職に合意してくれませんか」と打診する行為で、社員に応じる義務はありません。双方合意による退職を目指すため、一方的な解雇に比べて後の紛争リスクが低くなります。記録と指導を重ねても改善が見られない場合の現実的な選択肢です。

ただし進め方を誤ると違法になります。「辞めなければ解雇する」と脅したり、人格を否定する発言をしたり、断っているのに執拗に迫れば、適法な退職勧奨ではなく違法な強要です。損害賠償を請求されるおそれがあります。

線引きは繊細で、独力での判断は危険です。退職勧奨や懲戒処分に踏み込む前には、社会保険労務士や弁護士に必ず一度相談してください。事後の紛争処理費用に比べれば、事前相談のコストははるかに小さく済みます。

一人で抱え込まないことが、最善の初動

ここまで読んで「やるべきことが多くて重い」と感じたかもしれません。中小企業では人事の専門部署がなく、経営者自身が向き合わざるを得ないことが多いからです。

ただ、いま手を打つ目的は問題社員一人を裁くことではありません。真面目に働く他の社員を守り、組織を健全に保つこと。それが本当のゴールです。

必要なのは英雄的な決断ではなく、記録・面談・就業規則という地道な土台づくりと、適切なタイミングで外部の手を借りる判断です。早い段階で相談相手を持つこと。それが結果として経営者自身を守る最も確実な初動になります。

人事の意思決定が経営者に集中する構造そのものを見直したい方は、CHRO代行とは?社外CHROの選び方もあわせてご覧ください。

問題社員への対応、一人で抱え込んでいませんか?

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