「前月の数字が固まるのが、いつも翌月の20日過ぎ」
「試算表が届く頃には、もう打ち手を考える時間が残っていない」
「決算が遅いのは経理の問題だと思ってきたが、本当にそれだけだろうか」
社員数十名規模の会社で、経理を1〜数名で回している経営者ほど、こうした感覚を抱きがちです。月次決算の遅れは、担当者の能力やがんばりの問題に見えて、実際には「仕組みの問題」であることがほとんどです。経理が少人数だからこそ、属人化と月末集中が同時に起き、締めが後ろにずれていきます。
本稿では、月次決算(毎月の業績を締めて試算表にまとめる作業)を翌月10日までに締めるための考え方と、3つのステップをお伝えします。ツールを入れる前に何を整えるべきか、どこに落とし穴があるかまで、経営者の目線で一緒に考えていきます。
この記事でわかること
- なぜ月次決算の早期化が、経営判断・資金繰り・金融機関対応に効くのか
- 月次決算が遅れる3つの根本原因(数値データつき)
- 翌月10日に締めるための3ステップ(証憑回収と取引先調整 → 概算計上 → クラウド会計)
- 早期化で陥りやすい落とし穴と、自走できないときの選択肢
なぜ今、月次決算の早期化が経営の急務なのか?
結論から言えば、月次決算は「過去の記録」ではなく「経営のレーダー」だからです。締め日が早いほど、異常値に気づいて手を打つまでの時間が長く取れます。
月次決算が翌月20日に固まる会社では、前月の実績が見えた時点で、すでに当月も3分の2が過ぎています。たとえば9月の数字が10月20日に分かっても、10月の打ち手はもう半分以上が手遅れです。一方、翌月10日に試算表が揃えば、9月の実績を10月初旬に確認でき、残りの期間で軌道修正ができます。同じ数字でも、届くタイミングが10日違うだけで、経営判断に使える「時間」がまるで変わってくるのです。
試算表が翌月10日に届くと、経営判断はどう変わるのか?
「気づいたときには手遅れ」が「気づいた時点でまだ間に合う」に変わります。
たとえば、ある月の粗利率が前月より3ポイント落ちていたとします。翌月10日にそれが見えれば、原価の上昇なのか値引きの増加なのかを当月中に確認し、対策を打てます。これが翌月末に判明する会社では、原因を調べているうちにさらに翌月へと問題が持ち越され、気づけば四半期まるごと利益を削っていた、ということが起こります。月次決算の解像度は、締め日の早さがそのまま決めるのです。
金融機関対応で、なぜ「数字の鮮度」が効くのか?
最新の試算表をすぐ出せる会社は、銀行から「管理が行き届いている」と評価されやすいからです。
融資の相談で「直近の試算表はいつのものですか」と聞かれたとき、翌月10日締めの体制なら、最大でも1か月以内の数字を即座に開示できます。数字の鮮度は、それ自体が経営管理の質を示すシグナルになります。銀行交渉を「お願い」から「対等な提案」に変える準備については、中小企業の銀行交渉を変える5つの準備もあわせてご覧ください。
月次決算はなぜ遅れるのか?
遅れの正体は、担当者の努力不足ではなく「手作業・情報の行き違い・証憑回収」という3つの工程のつまりです。
マネーフォワードの調査(n=635)によると、月次決算確定前の誤りや修正が発生する原因は、1位が「手入力によるミス(40.8%)」、2位が「関連部署からの報告漏れ・情報共有の遅延(26.5%)」、3位が「証憑書類の回収不足や内容不備(22.0%)」でした(マネーフォワード調べ・n=635)。
2位の「情報共有の遅延」は大企業だけの話ではありません。社員数十名規模の会社でも、現場の営業担当・現場責任者と経理担当者のあいだ、あるいは取引先と経理のあいだで、請求書の到着や金額の確定情報が遅れて伝わるという形で、まったく同じ構造が起こります。組織が小さくても、人と人をまたいで情報が動く以上、伝達のタイムラグは必ず発生するのです。
背景には、経理現場の人手不足もあります。Sansanの調査では、経理担当者の50.1%が「人手不足を感じている」と回答し、そのうち約85%が「深刻な状況」だと答えています。さらに人手不足による具体的な悪影響として「月次決算の遅れが生じる」を挙げた割合は32.9%にのぼりました(Sansan「経理の人手不足に関する実態調査」, 2024年3月, 対象1,000名)。加えてインボイス制度への対応で、経理担当者1人あたり月5.5時間の業務が増えたという調査もあります(Sansan, 2024年9月)。
つまり、限られた人手に作業が積み上がり、月末に集中する。この構造を変えない限り、根性論では早期化は実現しません。
翌月10日に締める3ステップとは?
ポイントは順番です。ツール導入から入るのではなく、「ルール → 概算 → 自動化」の順で整えると定着します。
ステップ1:証憑回収と取引先調整をどう設計するか?
最初に手をつけるべきは、システムではなく「誰が・何を・いつまでに出すか」のルールづくりです。
ここでいう証憑とは、請求書・領収書・経費精算など、仕訳の根拠になる書類のことです。これらの回収が滞ると、後工程がいくら速くても締まりません。社内向けには、次の3つから始めるのが現実的です。
- 月次決算の確定日(例:翌月10日)を決め、経営者と各業務の責任者で合意する
- 締め日カレンダーを作り、証憑の提出期限(目安は翌月2営業日)を毎月末に社内へ周知する
- 勘定科目ごとに残高明細の担当者を決め、「あの人しか分からない」状態を役割の形に置き換える
そして社内ルールづくりと並行して、見落とされがちなのが取引先側との調整です。実は、月次決算の遅れの多くは「社内が遅い」のではなく「証憑が翌月になってから届く」という構造に原因があります。これは社内の努力だけでは解消できません。
具体的には、次のような働きかけが効きます。
- 仕入先・外注先には、毎月末締めの請求書を「翌月第2営業日までに到着」を目安に送ってもらうよう依頼する(メール・PDFでの先行送付でも構わない旨を伝えると進みやすい)
- 自社側も、検収・請求のタイミングを月内・月初に前倒しできないか業務フローを点検する
- 毎月遅れる相手先は固定化しがちなので、年に一度、主要取引先に「請求締めの運用」を文書で改めて依頼する機会を作る
未提出の資料には、「催促」ではなく「予定どおり月次報告を行うための確認」というトーンでリマインドする。毎月同じ資料が遅れるなら、翌月の依頼に「先月不足しやすかった資料」を明記しておく。地味ですが、社内ルールと取引先調整をセットで設計することが、早期化の土台になります(参考:会計事務所FAScalmの実務フロー)。
ステップ2:概算計上で「確定待ち」からどう抜け出すか?
「全部の数字が確定するのを待ってから締める」発想を、「未確定は概算で計上して予定日に締める」へ切り替えます。
概算計上(がいさんけいじょう)とは、確定金額が間に合わない項目を、合理的な見積りで先に計上しておくことです。見越し計上(みこしけいじょう)とも呼ばれ、たとえば次のような項目が対象になります。
- 請求書が未着の仕入・外注費:前月実績をもとに未払計上する
- 月末在庫:予定原価率を使って概算する
- 減価償却費・賞与引当金:年間予定額を12分の1ずつ月次で均等計上する
- 社会保険料・労働保険料:年度額を月次に按分する
ここで経営者と合意しておきたいのが「どこまで概算でよいか」の基準です。経営判断に使う数字なら、月間売上の1〜3%程度の差異は概算で許容し、それを超えるものだけ確定値を待つ。この線引きを明文化しておけば、担当者が毎月迷わずに済みます。月次は経営判断のための数字、年次は税務申告の基礎となる確定数字、と二層で割り切る考え方は、管理会計とは何かでも詳しく触れています。
ステップ3:クラウド会計で処理をどう平準化するか?
最後に、月末に集中していた入力作業を、月中に分散させます。ここで初めてツールの出番です。
中小企業の会計実務は、今もインストール型の会計ソフト、あるいはExcelや手書きでの集計に依存している会社が少なくありません。月末にまとめて入力する構造そのものが、早期化のいちばんの足かせになっています。
打ち手はシンプルで、銀行口座とクレジットカードの明細をクラウド会計ソフトと週次で自動連携し、記帳を日々平準化することです。「月末にすべてを入力する」構造から、「月中に積み上げ、月末は確認と調整だけ」へ変える――この発想転換が、ステップ1で整えた証憑回収・ステップ2の概算計上と組み合わさって初めて、翌月10日の締めを現実にします。請求書サービスとの連携で売上仕訳の自動計上まで進めば、「月次決算が遅れる原因の1位」だった手入力ミスそのものを構造的に減らせます。
ツールは目的ではなく、ルールを動かすための装置です。順番を間違えなければ、クラウド会計は強力に効きます。
早期化で陥りやすい落とし穴は?
早期化は「速くすること」自体が目的になると、かえって逆効果になります。注意したい点を整理します。
第一に、スピードと精度のトレードオフです。確定を待たずに数字を出した結果、翌月の修正作業が増えては本末転倒です。だからこそステップ2の「概算の許容範囲」を決め、月中の自動仕訳で入力を平準化しておくことが効いてきます。
第二に、月次と年次の整合です。月次で使う概算値と、税務申告の基礎となる年次の確定値は別物として管理します。「月次は管理会計、年次は税務会計」と分け、経営者自身がこの二層構造を理解しておくことが大切です。
第三に、最も多い落とし穴ですが、ツール導入だけでは解決しないということです。クラウド会計を入れても、証憑提出のルールや取引先との合意がなければ宝の持ち腐れになります。「ルール → 人 → ツール」の順で整えるのが定着のコツである理由は、ここにあります。
そして最後に、経営者の関与が薄いと形骸化します。月次決算は経理担当者の作業ではなく、経営者が意思決定に使う情報インフラです。経営者が試算表を読まなければ、担当者の意欲も下がり、せっかくの早期化が続きません。毎月10日前後に月次レビューの場を設けることが、定着の鍵になります。
自走できないときの選択肢は?
「やるべきことは分かったが、設計と定着までを自社だけで進める余力がない」――そう感じた経営者も多いはずです。
そのときの選択肢が、社外CFO・番頭代行といった外部の財務人材の活用です。役割分担はシンプルで、経営者は「数字を見て決める」、外部人材は「経営者が決められる状態に数字を整える」。具体的には、締め日カレンダーや概算計上ルールの文書化、取引先への請求運用の依頼文の整備、クラウド会計の初期設定、金融機関向け月次報告フォーマットの整備、そして月次レビュー会議の制度化まで、自走できる仕組みを伴走しながら作っていきます。
大切なのは、外部に「丸投げ」して依存することではなく、自社の担当者が1人でも回せる状態をつくることです。社外CFOと税理士は対立ではなく補完の関係にあります。その違いは社外CFOと税理士の違いとは?で整理していますので、あわせてご覧ください。
月次決算の早期化は、特別な才能ではなく「順番を間違えない仕組み化」で実現できます。まずは自社の締め日が今どこで止まっているのか、その一点を確認することから始めてみてください。
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参考資料
- 経理の人手不足に関する実態調査(2024年3月) | Sansan
- インボイス制度開始1年後の実態調査(2024年9月) | Sansan
- 月次決算のスケジュールは?遅れる原因や対策ポイントについて解説 | マネーフォワード
- 月次決算を早期化するポイントとは?メリットや注意点などを解説 | マネーフォワード
- 月次決算を早期化する会計事務所の実務フロー Day1〜Day5 | FAScalm
- 月次決算を徹底せよ | TKC 情報誌「戦略経営者」



