クリニックの1on1面談設計|離職を防ぐ扱う/避けるテーマと質問の型

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「最後にスタッフの本音を聞いたのは、いつでしたか」

退職届を受け取って初めて、その人が抱えていた不満や不安に気づく。面談の時間はとっているのに、毎回「特に何もないです」で終わってしまう。小規模なクリニックを経営する院長から、私たちが最もよく相談を受けるのが、この「スタッフの本音が見えない」という悩みです。

本記事では、1on1(ワンオンワン、上司と部下が1対1で行う対話面談)で扱うテーマ・避けるテーマ、本音を引き出す質問の型を整理します。「忙しくて時間がとれない」「何を話せばいいかわからない」院長でも月1回15分から始められる内容です。

この記事でわかること

  • 1on1と評価面談を分けないと、なぜ本音が出なくなるのか
  • 1on1で「扱うテーマ」と「避けるテーマ」の早見表
  • 沈黙や「特に何もないです」を防ぐ、本音を引き出す質問の型
  • 院長が陥りやすい5つの失敗と、その避け方
  • 月1回15分の1on1で離職率が改善した、医療現場の実例

そもそも1on1とは?評価面談と何が違うのか

1on1とは、スタッフの成長と信頼関係づくりを目的に上司と部下が定期的に行う1対1の対話で、人事評価や処遇の査定を行う「評価面談」とは目的も主導者も異なります。

これを混同すると、スタッフは「評価されているかも」と身構え本音を話しません。実際、人事評価と1on1が切り分けられていないと「効果が著しく低下する」と指摘されています(カオナビ)。両者の違いは次のとおりです。

観点1on1(育成・信頼)評価面談(査定)
頻度週1〜月1回半年〜年1回
主導するのはスタッフ院長
目的成長支援・不安の解消成果評価・処遇の決定
処遇への影響原則なし直接影響する
スタッフの心理話しやすい警戒する

院長との距離が近い小規模クリニックではこの切り分けが特に重要で、「話したことが評価や給与に響くのでは」という不安が先に立つと面談は当たり障りのない時間になります。毎回「今日の話は評価とは関係ありません」と最初に確認しましょう。

なお、こうした面談の土台となる「何でも言える空気」そのものについては、クリニックの心理的安全性|連鎖退職を防ぐ院長の3つの習慣であわせて解説しています。

1on1で扱うテーマ・避けるテーマは?早見表で整理

結論から言えば、1on1で扱うのは「スタッフの感情・体調・人間関係・キャリア」、避けるのは「給与交渉・業務指示・他のスタッフの評価・説教」です。何を話すかの線引きが、面談の成否を大きく左右します。

扱うべきテーマ避けるべきテーマ
最近やりがい・つらさを感じた場面給与・賞与・昇給の交渉
体調・精神的な疲労度業務指示・タスクの割り振り
職場の人間関係で気になること他のスタッフへの評価・陰口
キャリア・スキルアップの希望問い詰め・指摘・説教
シフト・休暇・ライフステージの変化「Aさんをどう思う?」という探り
業務フローの改善提案院長の一方的な近況報告
患者対応で悩んでいること進捗確認だけで終わる会話

避けるテーマには、それぞれ理由があります。

  • 給与・処遇の話:持ち込んだ瞬間にスタッフが査定を意識し本音が引っ込む。処遇は評価面談で扱う
  • 業務指示・タスクの割り振り:1on1が「進捗確認会議」化し「また仕事を増やされる場」と認識されると発言が減る
  • 他スタッフへの評価を尋ねる:密告文化を生む。少人数の職場ほど探りはすぐ広まる
  • 説教・問い詰め:愚痴や不安に「それで何を学んだ」と内省を迫る行為。助言のつもりでも指摘や叱責に映る

「特に何もないです」を防ぐ、本音を引き出す質問の型

本音を引き出す鍵は、Yes/Noで終わらない「オープン質問」を現状→感情→未来の順で重ねること。「困っていることは?」で沈黙する面談はクローズド質問(はい・いいえで答えられる質問)が原因です。次の3ステップで会話が深まります。

ステップ1:現状確認(場を温める)

  • 「今週、一番時間を使ったのはどんな仕事でしたか」
  • 「最近、診療でうまくいったと感じた場面はありましたか」

事実から語ってもらい扉を開きます。いきなり「悩みは?」と核心を突くと相手は身構えます。

ステップ2:感情・価値観へアクセスする(本音を引き出す)

  • 「そのとき、どんな気持ちでしたか」
  • 「一番きつかったのは何でしたか」
  • 「この仕事でやりがいを感じる瞬間はいつですか」

感情に焦点を当て「正解を求めない」姿勢が大切です。評価の気配が伝わるとスタッフは安全な答えに逃げます。

ステップ3:未来志向(次の一歩につなげる)

  • 「来週、一つだけ試してみたいことはありますか」
  • 「院長として、何かサポートできることはありますか」

最後に院長が「動く約束」をします。出た声に変化が起きなければ次回から本音は語られません。シフトの微調整、備品の購入、ルールの見直しなど小さな変化で十分です。「言っても無駄」という諦めを壊すことが本音を引き出す土壌になります。

傾聴で気をつけたいこと

質問の型と同じくらい、聴く姿勢が結果を分けます。

  • 話を最後まで遮らず、相槌や復唱で「聴いている」を示す
  • 「それはつらかったですね」と共感を先に返す
  • スマホやカルテ画面を見ず視線を合わせる
  • メモは最小限に(記録されていると感じると話せなくなる)
  • 沈黙を怖がらない(沈黙は「考えている」サイン。焦って埋めると本音の芽を摘む)

院長が陥りやすい1on1の失敗とは?5つのパターン

うまくいかない原因の多くは次の5つで、いずれも「よかれと思って」やってしまう点が共通します。

失敗1:説教・指示出しの場になる

「それはこうすべきだ」と始まるとスタッフは「また怒られた」と受け取り、次から話さなくなります。

失敗2:頻度が続かず、キャンセルが重なる

1〜2回で「忙しいから」と中断するとスタッフは「自分には関心がないのだ」と確信します。質より頻度、続けること自体が信頼の証です。

失敗3:業務進捗の確認会議になる

「先週のあの件は」だけで15分が終わるパターン。2025年の調査では1on1について「毎回似た内容の繰り返し」51.9%、「表面的な会話にとどまり本質的な議論に発展しない」42.8%にのぼりました(MENTAGRAPH, 2025)。進捗確認は別の場で行い、1on1は対話に集中させましょう。

失敗4:「何もないです」で終わる

クローズド質問が原因で会話が広がらないパターン。前述のオープン質問に切り替えるだけで変わります。

失敗5:院長が「解決しよう」としすぎる

「仕事がきつくて」と話し始めると即「来月からシフトを変えましょう」と解決策を出す。医師は問題を診断し解決するプロですが、その習慣が1on1では裏目に出ます。スタッフの本音は「まず最後まで聴いてほしかった」であることが少なくありません。解決を急ぐ前に、まず受け止める。これが医療現場の1on1で特に意識したい点です。

クリニックで1on1を続けるコツは?月1回15分から

シフト制で多忙なクリニックでは、大企業向けの「週1回30分」型は続きません。診療をしながら全スタッフと面談する院長には非現実的だからです。月1回15分から始め、ハードルを下げて短くても続けるのが現実的です。

続けるための工夫をいくつか挙げます。

  • 時間:月1回15分から。シフトの交代時間や昼休みを活用する
  • 場所:診察室外や個別ブースなど、落ち着いて話せる空間を選ぶ
  • 守秘の明示:「ここで話したことは他のスタッフには伝えません」と最初に約束する。少人数ほど「内容が漏れる」不安が強いため、この一言が効きます
  • 負荷の分散:院長1人で抱え込まず、主任や事務長に一部を委ねる、3か月ローテーションにするなどの設計も有効です

クリニックならではの観点として、医療現場特有のストレスをすくい上げることを忘れないでください。看取り、クレーム対応、感染リスクなど一般企業にはない精神的負荷があります。1on1を早期発見アンテナ(メンタル不調の兆候を拾う場)と位置づけると、バーンアウト(燃え尽き)予防につながります。

面談を「組織の文化」として根づかせる視点については、クリニックの組織風土を測る|院長が知っておくべき3つのサーベイ手法もあわせてご覧ください。

1on1は本当に離職防止につながるのか?データと実例

定期的な1on1はスタッフの定着に寄与します。「本音を聞いてもらえた」実感が辞める理由を一つずつ減らすからです。

医療・福祉業界の離職率は13.8%(2024年)で全産業平均14.2%とほぼ同水準(クリニック未来ラボ調べ, 2024)。看護師(正規雇用)の既卒採用者離職率は16.1%(日本看護協会, 2026年発表)。年間で約7人に1人が辞める計算で、少人数のクリニックでは1人の退職が次を呼ぶ「連鎖」リスクが特に高くなります。

1on1の効果については、次のようなデータがあります。

  • 1on1を定期実施しないマネジャーのチームでは、エンゲージメントの高い社員は15%にとどまる一方、定期実施するチームでは約3倍に増える。マネジャーはチームのエンゲージメントのばらつきの70%を説明する(Gallup)
  • 国内の1on1導入企業では、60.1%が「上司と部下のコミュニケーション機会が増えた」、40.2%が「本音で話せる関係になっている」と回答(リクルートマネジメントソリューションズ調べ)

医療現場の実例では、ある中規模クリニックで月1回15分の1on1を導入し看護師の離職率が改善したと報告されています。理由は「日頃言えなかった不安を聞いてもらえた」「院長が自分を見てくれていると感じた」(note/医療現場に1on1を)。個別観察のため全クリニックで同じ効果が出ると断定はできませんが、本音を受け止める場を持つことが離職の引き金を減らすことは複数のデータと現場の声が示しています。

離職の主な原因と、1on1でできることを対応させると、次のように整理できます。

離職の主な原因1on1でできること
職場の人間関係摩擦を早期に察知し、介入する
業務量・過労「限界が近い」信号を受け取る
成長機会の不足希望を聞き、研修や役割につなげる
評価・待遇への不満評価面談とは別に、日常的な承認を届ける
精神的健康の悪化燃え尽きの兆候を早期に発見する

今日からできる、最小単位の1on1

始め方はシンプルです。月1回・15分・スタッフ1人と個室で向き合う。最初の一言は「今日の話は評価とは関係ありません。最近どうですか」で十分。あとは「現状→感情→未来」の質問を思い出したものから使ってみてください。

完璧を目指す必要はありません。続けること、出てきた声に小さくでも応えること。この2つさえ守れば、スタッフは少しずつ本音を見せてくれます。

1on1は理念の浸透や評価制度とつながって初めて組織全体の力になります。面談・理念・評価の連動についてはクリニックの理念が浸透しない3つの理由と「三層設計」の処方箋もご参照ください。

院長の右腕として組織づくりまで支える体制はクリニック院長向け「番頭代行」の詳細で確認できます。

スタッフの本音が見えないまま、面談を続けていませんか?

1on1の設計や評価面談との切り分けは、院長おひとりで抱えると形骸化しがちな領域です。社外のCHRO(人事責任者)として、貴院の規模やシフトに合わせた面談の仕組みづくりを一緒に考えます。まずは無料相談で、現状の課題をお聞かせください。

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参考資料