2026年3月30日、厚生労働省が医療広告ガイドラインを改正しました。今回の改正は、ガイドライン本体・Q&A・事例解説書の3文書が同時に更新されるという異例の規模です。
私たちのチームでも改正に対応したAI簡易チェックアプリを開発し、クライアントクリニックの過去記事をスキャンしています。支援先クリニックの過去記事をスキャンすると、「旧バージョンでは問題なかったが今回の改正で引っかかる」表現が多くのクリニックで見つかります。院長が気づかないまま放置しているケースが多い理由は、改正内容が専門的で読みにくいからです。この記事では、院長に特に関係の深い4つのポイントを、実例を交えてわかりやすく整理します。
今回の改正、何がどう変わったのか?
| 変更領域 | 改正前(第5版まで) | 改正後(第6版 / 2026年3月30日〜) | 対応期限 |
|---|---|---|---|
| SNS投稿の規制対象 | SNS・動画の広告事例は第5版までにも掲載 | SNS・動画の広告事例が拡充(厚生労働省 事務連絡) | 即時 |
| 未承認薬の必須記載(5項目) | (a)(b)(未承認薬である旨・入手経路)の記載漏れが主な指摘対象。(c)〜(e)は見落とされがち | (c)〜(e)の記載漏れパターンが第6版で具体化。全5項目が指導対象として再明確化 | 即時 |
| 誇大広告NGワード | 「日本一」「No.1」「完全治癒」「絶対安全」等 | 効果を数字で断定する表現(例:発毛率99%)や、根拠を示さない患者満足度の表現などが事例として示されている | 即時(過去記事・LPも対象) |
| 再生医療・動画コンテンツ | 「厚生労働省から認可を受けている」等の誤認表現は、第5版までの事例解説書でも示されていた | SNS・動画の広告事例が拡充。再生医療関連(エクソソーム療法等)の事例も掲載 | 即時(再生医療非提供クリニックはスキップ可) |
| オンライン診療広告 | 規定なし(オンライン診療の広告規制が不明確) | 「第4 オンライン診療受診施設に関する広告について」を新設 | 即時(オンライン診療実施クリニックのみ) |
3文書が同時改定という「異例の規模」
厚生労働省が今回更新した文書は以下の3つです。
- 医療広告ガイドライン本体(令和8年3月30日最終改正)
- ガイドラインに関するQ&A(令和8年3月改定)
- 医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書 第6版(令和8年3月30日)
背景には、令和7年法律第87号によりオンライン診療が法制上に正式位置づけられたことがあります。ガイドライン本体には「第4 オンライン診療受診施設に関する広告について」が新設されました。また、事例解説書第6版では、SNS・動画の広告事例や、自由診療の限定解除要件を満たしていない事例が拡充されました(厚生労働省 事務連絡)。旧バージョン(第4版・第5版)対応のクリニックは、第6版への再確認が必要です。
ポイント1: 自院のSNS投稿はいつ「広告」として規制されるのか?
「クリニック名+受診促進の意図」があれば広告
「クリニック名や診療内容への言及」と「受診を促す意図」が重なる投稿は、SNSであっても医療広告として規制対象になります。たとえば、院長がInstagramのReelsで施術の流れを紹介して「詳しくはLINEへ」と誘導しているケースや、スタッフが患者の声がけ動画を投稿しているケースは、この基準に該当し得ます。
インフルエンサー起用・ステルスマーケティングの扱い
クリニックが美容インフルエンサーやアンバサダーに施術を提供・報酬を渡してSNS投稿を依頼した場合、その投稿は広告として扱われうることが、ガイドライン本体に示されています(広告料等の費用負担等の便宜を図って掲載を依頼している場合など)。あわせて、報酬を受けた旨を示さない投稿は、景品表示法のステルスマーケティング規制の問題にもなります。
医療広告規制と景品表示法の両面から確認が必要です。起用中のインフルエンサーがいる場合は、投稿文言の見直しをお勧めします。
ポイント2: 未承認薬を扱うクリニック、5項目の記載はすべて揃っているか?
1項目でも欠ければ違反
AGA治療・美容皮膚科・点滴療法などで未承認医薬品や未承認医療機器を用いる場合、ウェブサイトやSNSへの記載に以下5項目がすべて必要です。
| # | 必須記載事項 |
|---|---|
| (a) | 未承認薬・医療機器である旨 |
| (b) | 入手経路(個人輸入等) |
| (c) | 国内で同一成分・性能を有する承認薬・医療機器の有無 |
| (d) | 諸外国における安全性等に係る情報 |
| (e) | 公的医療保険適用外かつ医薬品副作用被害救済制度の対象外である旨 |
5項目はいずれも2018年(平成30年)のガイドラインQ&A策定時から必須要件です。ただし、これまでの指導現場では「未承認薬である旨」「入手経路」の2項目が主に問題視されがちでした。今回の事例解説書第6版では(c)〜(e)の記載漏れパターンが具体的に示され、指導対象として改めて明確化されています。「治療名は書いているが副作用被害救済制度の対象外であることを書いていない」というケースが最も多いパターンです。
ポイント3: 誇大広告の事例(効果の数字・満足度・最先端)を見直す
過去のブログ・LPに残っていませんか?
事例解説書第6版には、「誇大広告」に当たりうる具体的な表現例が示されています。代表例は以下です。
- 「HARG療法の発毛率は99%です」「治療を受けた患者様のほぼ全員が効果を実感しておられます」(効果を数字や全員と断定する例)
- 患者満足度99%など、調査の根拠を示さずに満足度だけを掲げる例
- 「最先端の医療」「最適な治療」など、自院や特定の治療法・機器が最適・最先端であると示す例
これらは院長が「良い意味で書いた」表現として数年前のブログ記事やランディングページに残っていることが多いです。私たちのAIチェックツールでも、開設から3年以上経過したクリニックほど旧記事にこうした表現が残っている傾向がありました。
既存の誇大広告NGワード(「日本一」「業界No.1」「完全治癒」「絶対に安全」等)と合わせて、サイト全体の棚卸しが求められます。
ポイント4: 再生医療と動画コンテンツの事例を確認する
「厚労省認可」は使えない
エクソソーム療法や幹細胞治療を提供しているクリニックへの影響が大きいのが、このポイントです。事例解説書には、厚生労働省の承認・認可を受けていると誤認させる広告の例として、次のような表現が示されています(第5版にも掲載)。
- 「厚生労働省から認可を受けています!」
- 「厚生労働省にも承認された治療法です」
- 特別な承認・認可・お墨付きを得ているかのような表現
- 届出がなされていないのに、承認等を得たかのように謳う表現
厚労省への届出と「承認」は全く異なる概念です。両者を混同した広告表現は、誤認を与えるものとして事例に示されています。
YouTubeやInstagramなどのSNS・動画の広告事例は、第6版で拡充されました(厚生労働省 事務連絡)。治療の様子を撮影した動画やドクター解説動画にも同ガイドラインが適用されます。
違反した場合、何が起きるのか?
違反広告への対応フローは「指導改善要求(覚知から2〜3ヶ月)→ 是正命令(6ヶ月)→ 指定取り消し・刑事告発(1年)」と段階的に厳格化されています(厚生労働省「医療広告ガイドラインに基づく標準的な対応期限も含めた指導・措置等の実施手順書のひな型」より)。
罰則は虚偽広告・是正命令違反ともに6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金(医療法第87条。虚偽広告は第1号、是正命令違反は第3号)。最悪のケースでは厚生労働省のウェブサイトで医院名が公表されます。2025年には東京都の歯科医院が、Googleマップへの高評価投稿を条件に割引を提供するステルスマーケティングで景品表示法違反とされ、消費者庁から措置命令を受けた事例があります。医療広告違反は医療法と景品表示法の両面から問われる状況が続いています。
改正後の対応として、今週中に動けることは何か?
まず動けるアクションは3つです。
アクション1: 過去記事の「NGワードスキャン」
ホームページの全ページ、ブログ記事、LPを対象に、誇大広告に当たりうる表現(上記の例など)が含まれていないか確認します。特に開設から2〜3年以上経過したページは要注意です。
ページ数が多い場合は支援ツールを活用すると網羅しやすくなります。
アクション2: SNS投稿の誘引性チェック
直近のInstagram・X等の投稿を確認し、「クリニック名+受診促進」の意図がある投稿を洗い出します。インフルエンサーや患者に依頼した投稿がある場合は報酬明示の有無も確認してください。
アクション3: 未承認薬の記載確認
未承認薬・未承認医療機器を使う治療メニューがあれば、5項目すべての記載があるかページ単位で確認します。特に(c)〜(e)の漏れが多いため、チェックリストの活用をお勧めします。
まとめ
2026年3月30日の改正で影響が大きいのは、日常的にSNSを使っているクリニック、未承認薬を扱っている診療科、開設から数年が経過して過去記事が積み上がっているサイトです。すべての変更が「今すぐ対応できる」話なので、まず上記3つのアクションから着手してみてください。
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参考資料
- 医療広告規制について(厚生労働省)
- 医療広告等ガイドライン(令和8年3月30日最終改正)
- 医療広告ガイドラインに関するQ&A(令和8年3月改定)
- 医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書(第6版)
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