採用するかどうか。誰を昇給させるか。辞めそうなあの人をどう繋ぎ止めるか。気づけば人事の判断が、すべて社長であるあなたの机に集まっていないでしょうか。
社員は数十名から100名ほど。専任の人事責任者を置くほどではないが、人事の論点は増えている。手続きをこなすジュニア担当者はいても制度設計や「誰を選ぶか」までは判断できず、結局、本業で手一杯の社長が面接にも評価面談にも顔を出している——。この記事は、その「社長+担当者一人で人事を背負い、消耗している」経営者に向けたものです。肩代わりの選択肢がCHRO代行(社外CHRO)。混同しやすい点を解きほぐし、必要かどうかの判断材料を整理します。
この記事でわかること
- CHRO代行(社外CHRO)が担う役割と、社長の「ヒトの右腕」という位置づけ
- 社労士・人材紹介・人事コンサルとの棲み分け(経営者が最も混同しやすい点)
- なぜ社内の人ではなく「社外」に頼むのか、その本質的なメリット
- 自社に必要なサイン・不要なケースと、費用・選び方・導入の進め方
CHRO代行とは?社長の「ヒトの右腕」のこと
CHRO代行とは、ひとことで言えば「人事の意思決定を社長と一緒に担う外部の右腕」です。単なる人事実務の外注ではありません。
CHROは Chief Human Resource Officer(最高人事責任者)の略で、経営戦略と人事戦略をつなぎ、社長と並走して「人と組織」の判断を担う役職です。採用・評価・報酬という攻めから労務リスクや離職防止という守りまで横断します。これを専任で雇わず、外部の専門家が週1日や月数回で担うのがCHRO代行です。「社外CHRO」「外部CHRO」とも呼ばれますが、実態はほぼ同じです。
財務に置き換えると分かりやすいでしょう。資金繰りや銀行交渉という「カネ」の判断を社長と担うのが社外CFOなら、採用や評価という「ヒト」の判断を担うのがCHRO代行です。社外CFOの詳細は「社外CFOはスタートアップに必要か?導入タイミング・費用相場・失敗しない選び方」をご覧ください。
CHRO代行は何をしてくれる?「採用」と「それ以外」を分けて考える
最初に押さえてほしいのが、「採用」と「それ以外の人事領域」は別物だという点です。一緒くたにすると期待値がずれ、導入後に「思っていたのと違う」となりがちです。
採用領域でできること
採用は人を「外から連れてくる」仕事です。CHRO代行は、求人票の改善や採用ブランディング、面接の評価基準づくり、選考フローやオンボーディングの設計を担います。ただし人材紹介会社のように候補者を直接連れてくる存在ではありません。「採用の勝ち筋を設計する」のがCHRO代行、「人を紹介する」のが人材紹介です。
採用以外の人事領域でできること
採用以外には、評価制度・報酬の設計、就業規則を含む労務リスク管理、離職対策、組織文化の醸成、社長の人事課題の壁打ちがあり、論点も採用とは異なります。
中小企業で起きやすいのが、目の前の採用に追われて「採用以外」が後回しになる構造です。CHRO代行の価値は、手が回らないこの「採用以外」に目を向け、攻めと守りのバランスを取り戻す点にあります。
CHRO代行と社労士・人材紹介・人事コンサルは何が違う?
CHRO代行は「当事者として組織づくりに伴走する」点で、ほかの3つと決定的に違います。経営者が最も混同しやすいので整理しておきましょう。
| 主な役割 | 実行まで担うか | 経営への関与 | |
|---|---|---|---|
| 社労士 | 労務手続き・法令遵守 | 助言が中心 | 低(現場実務) |
| 人材紹介 | 採用候補者の紹介 | 紹介で完了 | 低(採用特化) |
| 人事コンサル | 制度設計・課題診断 | 納品で完了 | 中(提言中心) |
| CHRO代行 | 人事戦略全体の立案と実行 | 担う(伴走型) | 高(経営に参画) |
社労士・人材紹介・人事コンサルは、助言・紹介・納品で役割が完結し、その後の運用まで伴走しないことが多いものです。CHRO代行はこれらを「人事戦略」で束ね、設計から現場調整、実行まで伴走します。各専門家を使い分けつつ経営判断に落とすのが、その役割です。
なぜ「社内の人」ではなく「社外」に頼むのか?
社外に頼む最大の意義は、その人が社内の利害やしがらみから自由で、社長と利害が一致していることです。コストの問題だけでなく、ここに本質的な価値があります。
社内の人間に人事の重要判断を委ねると、本人の立場や保身という利害相反が構造的に混じります。たとえば採用では、社内の人は自分より優秀な人を採る場面で「自分の立場が脅かされる」感覚が働き、候補を避けたり評価を歪めたりしがちです。社外CHROにはその利害がなく、会社に必要な人材かだけで判断できます。
人事制度の改革も同じです。評価や報酬の見直しは、いまの制度で得をしている社員ほど現状維持バイアスが働き、現場から改革提案は上がってきません。社外CHROは社内の損得から自由なので、社長と二人三脚で「痛みを伴うが必要な改革」に踏み込めます。「中立性」と「社長との利害一致」こそ、社内の人員強化では得られない価値なのです。
なぜ中小企業は専任CHROを雇えない?
CHRO級の人材を正社員で雇うのは、中小企業には現実的に難しいものです。理由は2つあります。
ひとつは採用コストの壁。中途採用は一人あたり平均134.6万円(2024年実績、マイナビ「中途採用状況調査2025年版」)かかり、年収800万〜1,200万円クラスのCHRO級ともなればコストはさらに膨らみます。
もうひとつは人材市場の薄さです。正社員が不足していると感じる企業は53.4%(帝国データバンク, 2025年1月)にのぼり、獲得競争は激化しています。中小企業の74.4%が人材課題を「ある」と答えている(fundbook調査・manegy掲載, 2025年1月)のも、この厳しさの裏づけです。だからこそ、必要な分だけ外部から機能を借りるCHRO代行が現実的な選択肢になっています。
自社にCHRO代行が必要なサインは?
経営者が「人事を考えると気が重い」と感じ始めたら、それ自体がサインです。定量・定性でチェックポイントを挙げます。
数字で見る定量的なサイン
- 各人のコンディションや貢献度、評価の妥当性まで社長一人では目が届かなくなってきた
- 社長と現場の間に中間管理職が必要な規模になり、評価や登用の基準を仕組みで持つ必要が出てきた
- 入社3〜6か月での早期離職が続いている
- 人事評価制度がない、または5年以上見直されていない
- 労務に関する相談やトラブルが月に1〜2件以上発生している
人事評価制度の導入率は従業員30名超50名以下で52.6%、50名超100名以下で68.1%(2025年版中小企業白書)。この規模で評価制度がない会社は珍しくなく、整備のしどころです。
現場感で気づく定性的なサイン
数字に表れる前に、社長が肌で感じる兆候もあります。
- 期待していた優秀な人材から辞めていく
- 「なぜあの人が昇格するのか」という不満の声が出始めた
- 採用面接も評価面談も、社長がすべて自分で出ている
- 人事担当者が手続き屋になっていて、設計や判断ができない
- 組織が「社長対現場」の二層構造で、間のマネジメント層が機能していない
ひとつでも思い当たるなら、人事が社長個人の属人芸で回っているサインです。現場の熱量の低下は、放置するほど立て直しに時間がかかります。日本企業で熱意ある状態の社員は6%にとどまる(Gallup, 2024年)という調査もあります。
逆に、今はCHRO代行が不要なケースは?
すべての会社に必要なわけではありません。次のような場合は今すぐ導入する必要はないでしょう。
- 従業員10名以下で、社長が全員を直接把握できている
- 困りごとが労務手続き・給与計算だけ(この場合は社労士で足ります)
- 採用が年に1〜2名程度で、すでに型ができている
- 社内に有能な人事責任者がすでにいる
CHRO代行は、手続きの先にある「設計」と「判断」に課題があるとき初めて効く選択肢です。
CHRO代行の費用はどれくらい?
公開相場はまだ確立途上で幅があります。以下は各社の公開情報をもとにした概算です。スポット中心の月数回で10〜20万円、週1日程度で20〜50万円、週2〜3日なら50〜100万円以上。シェアリング型なら月額15万円〜のサービスもあります(成長投資インサイト)。フルタイムでCHRO級を雇うより、必要な分だけ借りられるのが利点です。
CHRO代行はどう選ぶ?確認すべき4つの観点
依頼先を選ぶ前に、次の4点を確認してください。
- 課題領域と実績の一致:課題が「採用」か「採用以外(制度・労務・組織)」かを見極め、その領域の実績がある人を選ぶ
- 設計から実行まで伴走するか:助言止まりでなく、設計から現場調整・実行まで担うか
- 稼働形態が課題量に合うか:月数回・週1日など、自社の課題量に過不足ない稼働か
- 社長と本音で壁打ちできる相性か:人事は機微情報を扱うため、本音を出せる相手かが成果を分ける
CHRO代行はどう導入する?進め方と失敗パターン
導入は「全部お任せ」ではなく「社長との共同作業」として進めるのが成功の鍵です。
委託範囲はどう決める?
社長にしか決められない部分と任せてよい部分を切り分けるのが出発点です。人事方針の決裁、カルチャーの定義、重要施策のGO/NO-GOは社長が握る領域。課題の言語化や制度設計、労務リスクの早期察知といった「設計と調整」を任せれば、社長の負担は軽くなります。
どんな順番で進む?
最初の1〜2か月で課題の棚卸しと優先順位を合意し、続く数か月で最優先課題から着手します。軌道に乗れば内製化できる機能は社内へ移し、関与を戦略課題に絞るのが基本です。
ありがちな失敗パターンは?
つまずく原因は、次のどれかに集約されます。
- 丸投げしてしまう——全権委任すると社長の意思が現場に伝わらず空回りする
- 情報を共有しない——経営数値や組織の内情を伏せたまま人事施策は立てられない
- 期待値がずれている——「3か月で人事制度を全部作る」といった非現実的なスコープ
- 合意形成を飛ばす——なぜ外部の人が人事に関わるのか説明を省くと協力が得られない
- 安さだけで選ぶ——前述の選定観点を飛ばして安さで決め、成果が出ない
「社内のジュニア担当者と役割がぶつからないか」も事前に整理したいポイントです。CHRO代行は戦略・設計を、社内担当は実務・実行をと明文化すれば、担当者が身構えずにすみます。離職対策は「『あの人が辞めたら会社が回らない』を防ぐ人材BCP」もあわせてご覧ください。
まず何から始めればよい?
最初の一歩は、自社の人事課題を「採用/制度/労務/組織」の4つで棚卸しし、社長一人に集中している判断を洗い出すことです。課題の偏りが見えれば、依頼先に求める実績も稼働形態もおのずと定まります。
まとめ:ヒトの判断を一人で背負わないために
CHRO代行は、人にまつわる経営判断を社長と担う「ヒトの右腕」で、社内の利害から自由な「中立性」に独自の価値があります。財務の判断を社外CFOに、人の判断をCHRO代行に——領域ごとに右腕を持つのが現実的です。
私たち番頭代行は、CFO・COO・CHRO・CMOの4役割を横断する「社外の番頭」として、財務も人事も切り分けず経営者の隣で考える立ち位置をとっています。人事のどこから手をつけるか整理したい、自社にCHRO機能が要るのか壁打ちしたい——そんな方は無料相談で現状を聞かせてください。
人事の判断、ひとりで抱えていませんか?
初回相談は無料です。自社にCHRO機能が必要か、どこから手をつけるべきか——現状をお聞きして、次の一手を一緒に整理します。
参考資料
- 2025年版 中小企業白書 第4節 人材戦略 | 中小企業庁
- 人手不足に対する企業の動向調査(2025年1月)| 帝国データバンク
- 中小企業の人材課題調査(株式会社fundbook調査)| manegy掲載
- 中途採用状況調査2025年版(2024年実績・採用単価134.6万円)| マイナビ
- 日本の従業員エンゲージメント6% | Gallup / 共同通信PRワイヤー
- CHROと人事部長の違い | SmartHR Mag.
- 社外CHRO・人事顧問の費用相場 | 成長投資インサイト(経営者コネクト)



