開業から約1年で、都内で内科を中心に診療するあるクリニックには、Googleのクチコミが500件を超え、他の媒体でも200件を超える患者さんの声が集まりました。黒字になったのは、開業から5ヶ月目のことです。この経緯そのものは開業1年のあいだに何が起きたかをまとめた記事に譲りますが、今日お伝えしたいのは、その記事には書かなかった「続き」の話です。
先に、大切なお断りをしておきます。これは「効果がその後もずっと続いた」という宣伝ではなく、続けたからといって成果が伸び続けることをお約束する話でもありません。お伝えしたいのは、数字が出たあとも、外の相談相手との関わりがなぜ終わらず、約2年(2024年7月から継続中)続いているのか——その「関係」についてです。
主語は、最後までクリニック側に置きます。「誰かが何をしたか」ではなく、「一つのクリニックで、2年のあいだに何が変わり続けたか」を、できるだけ等身大でお伝えします。
この記事でわかること
- 結果が出た後の時期こそ、課題は姿を変えて続いていくということ
- 一度立て直した状態が、なぜ元に戻りやすいのかという一般的な構造
- 事業や組織が育つほど、管理や調整の手間はむしろ増えていくということ
結果が出た後、何が「起きなかった」のか?
クチコミが500件を超え、黒字になった——数字の上では、ひとつの区切りに見えた時期です。けれど外の相談相手との関わりは、そこで終わりませんでした。月々の相談は、約2年たった今も続いています。
単発の立て直しで終わる関わりと、続いていく関わりの違いは、生まれた成果の大きさそのものではないと、私たちは考えています。違いは、成果が出た「後」の経営の中で、何が起き続けているかにあります。数字はひとつの通過点で、そのあとにも性質の違う課題が控えていました。だから、終わらなかったのです。
一つのクリニックで関わりが続いている——その事実を出発点に、「なぜ終わらなかったのか」を落ち着いて振り返っていきます。
一度良くなった状態は、静かに元へ戻っていく
外からの力で改善したものは、その力が離れると戻りやすい——理屈にすれば、それだけのことです。
ある製造業向けの実務記事は、この現象を「バネが戻る」と表現しています。外部の支援者がいるあいだは、その圧力で現場が改善する。けれども「意識を変えよう」という掛け声だけにとどまり、意識しなくても正しい手順で回る仕組みにまで落とし込まれなければ、支援者が去ったあとに元の状態へ戻ってしまう、という指摘です(船井総合研究所)。
やっかいなのは、「結果が出た=もう大丈夫」という判断こそが、実はいちばん戻りやすいタイミングだということです。数字が良くなると、安心して手綱をゆるめたくなる。それは自然な感覚です。けれど、良くなった状態がまだ仕組みとして根づく前だと、静かに元へ戻っていく。一度良くなって、また元に戻ってしまった——そんな経験に心当たりのある院長先生も、少なくないはずです。
2年のあいだ、実際に何が変わり続けたのか?
変わり続けたのは、成果の数字ではなく、「その時々で向き合う課題そのもの」でした。1年目に同時多発で押し寄せたのは、集患・接遇・採用・資金繰り——どれも「立ち上げる」種類の悩みです。患者さんに来てもらい、迎える体制を整え、人を採り、資金を回す。開業したばかりの医院を軌道に乗せるための課題が、いちどきに肩へのしかかる時期でした。それが落ち着く2年目に入るころ、悩みの種類が静かに入れ替わります。立ち上がったものを崩さずに保ち、育てていく——今度は「続ける・広げる」種類の課題が中心になっていきました。同じ経営でも、向き合う相手がひとまわり変わったのです。
ここで、多くの院長先生が意外に感じる一般論をひとつお伝えします。事業や組織が育つほど、直感的には仕組みや体制が整って、管理の手間は減っていきそうに思えます。ところが実際には逆で、管理や調整の仕事はむしろ増えていきます。理由はそれほど難しくありません。人やスタッフが増えるほど、たがいに確認し合う組み合わせの数そのものが増えるからです。数人のうちは目と目で伝わっていたことが、人数が増えると、伝える相手の数だけ手間がかかるようになる。さらに、誰かに任せる範囲が広がるほど、その仕事を橋渡しし合う新しい仕事——報告を受ける、すり合わせる、確認する——が生まれます。
その結果、経営者の時間はむしろ会議やすり合わせに食われていきます。経営分野で広く参照される調査では、経営幹部が会議に費やす時間は週あたり平均でほぼ23時間に達し、半世紀前より大きく増えているという報告があります(Harvard Business Review, 2017年)。組織が育つほど、現場の実態をつかむための仕組みそのものが、経営者の時間を圧迫していくのです。
このクリニックでも、同じことが起きました。たとえば、朝礼のひと言で済んでいた申し送りが、人数が増えると一人ひとりに確認して回る時間に変わっていく——そんな種類の変化です。院長の目が届いていたところに、少しずつ行き違いが差し込むようになる。スタッフが数人のうちは、診療の合間の目配りひとつで足りていたものが、十数人になると、シフトの隙間や申し送りの端に生まれた小さなずれまでは、一人の目では追いきれなくなる。経営学でも、管理者一人が効果的に目を配れる部下の人数には限界があるとされ、その目安はおおむね5〜8人、多くても10人程度までと言われています(カオナビ人事用語集「スパン・オブ・コントロール」)。この目安を超えたあたりから、院長の目が届きづらくなり、行き違いが増えやすくなっていきます。任せることと、任せた先を確認すること。その両方に、開業直後とは違う手間がかかるようになりました。
制度への対応も、一度で終わりにはなりません。医療・福祉分野の離職率は13.5%とされ(厚生労働省「令和3年雇用動向調査」)、少人数のクリニックでは一人の退職が運営に響きます。採用と定着は、開業時に整えれば終わりではなく、その後もずっと向き合う課題です。診療報酬も原則2年に1度改定され、令和8年度の改定でも届出や施設基準の見直しが求められました(ユヤマ)。制度が変わるたびに、情報収集から自院への影響の見極め、その都度の判断が必要になります。だからこそ、「一度整えれば終わり」にはならなかったのです。
決めるのは、最後まで院長のままだったのか?
はい。課題が姿を変え続けても、何をどう決めるかの主導権が院長から移ることはありませんでした。外の相談相手が横に居続けることと、決める権限が誰かに移ることは、まったく別のことです。
外から持ち込まれるのは、答えでも指示でもなく、「今、こういう並び方に見えます」という一枚の整理です。どれを選び、どう進めるかは、院長ご自身の判断のまま動いていきます。毎月の具体的な支援の中身については、毎月どんな支援が動いているのかをまとめた記事に譲ります。ここでお伝えしたいのは、あくまで「関係がなぜ続いたか」までです。
「効果が出たら終わり」にならなかった理由
理由は、関わり方の「型」にあります。単発の施策ではなく、経営の意思決定のそばに継続的に居続ける——そういう関わり方だったからです。
一度きりの施策の効果は、時間とともに薄れやすいものです。一方で、次々に姿を変える課題に対して意思決定のそばで関わり続ける関わりは、性質が異なります。違いを生むのは施策の巧拙ではなく、関わり方の「型」そのものです。実際、国もこうした継続的な伴走を制度として位置づけています。中小企業庁は「経営力再構築伴走支援ガイドライン」を策定し、対話と傾聴を通じて経営者自身の気づきを促し、企業の自己変革力と自走を支えるという支援モデルを公式に示しています(中小企業庁, 2023年)。単発の診断・処方とは異なる関わり方が、公的にも裏づけられているということです。
続いた理由には、もうひとつ、静かな側面があります。経営者は、自院の課題や不安を、スタッフには打ち明けにくいものです。相談できる相手が少なく、孤独を抱えやすい。資金繰りや人事の悩みは専門家に、方向性やプレッシャーは気心の知れた相手に——そうやって胸のうちを分けて預けられることは、走り続ける経営にとって小さくない支えになります。決めるのは院長でも、その手前で一緒に眺める相手が変わらず居続けること。それ自体に、続ける意味がありました。
関係を重ねるほど、外の相談相手にはその医院への理解が蓄積し、助言はより的確になっていきます。続いたのは、相談相手が優秀だったからというより、続くこと自体に意味のある関わり方だったからです。院長先生が新しいツールを覚え直したり、経営の専門用語を一から学んだりする必要も、ここではありませんでした。
これは「効果が続く保証」の話なのでしょうか?
いいえ、違います。2年続いているのは事実ですが、他の院での継続や、成果が持続することを保証するものではありません。
短い期間で一気に立て直すことも、長く関わり続けることも、それぞれに合う場面があります。診療科も立地も、開業のタイミングも違えば、合うやり方も変わります。ここでお伝えしたかったのは、ただひとつ——結果が出た後こそ、課題は姿を変えて続いていく、ということだけです。
だからこそ、一度立ち止まって考えてみる価値があるのだと思います。今の経営の伴走の仕方は、成果が出たら終わる関係でしょうか。それとも、その後も続いていく関係でしょうか。この問いを、開いたまま院長先生にお渡しして、この記事を閉じたいと思います。
番頭代行という取り組みそのものについては、番頭代行という取り組み自体の説明で詳しくご紹介しています。
今の伴走の仕方は、成果が出たら終わる関係でしょうか?
数字が出た後も続く関わりが、自院に合っているのか。一度、外の目で確かめてみませんか。何かを売り込む場ではなく、今の関係を一緒に眺め直すための時間としてお使いください。
初回のご相談/無料・オンライン可
参考資料
- 船井総合研究所「コンサルを入れても現場が変わらない理由」
- Harvard Business Review「Stop the Meeting Madness」(2017年)
- カオナビ人事用語集「スパンオブコントロールとは?|マネジメントの限界は何人?」
- 厚生労働省「令和3年雇用動向調査」(クリニックステーション「実データにみる、医療従事者の給与水準と離職率」経由)
- ユヤマ公式コラム「令和8年度診療報酬改定の要点と対策」
- 中小企業庁「経営力再構築伴走支援ガイドラインを策定しました」(2023年)



